第153話 帰城

1586年9月13日


俺は大阪城に一泊、銀閣寺城に一泊して、近江大津城城下に入った。


近江はまだまだ暑く降り注ぐ太陽の日射しを浴びながら蝉が大合唱をしている。


城下に入ると、暑い中にも関わらず大通りに住民達は出てきて無事の帰還を華々しく歓迎してくれた。


俺はその歓声に答えてやれずにいたが、慶次や幸村が歓声に答えるかのごとく右手を握り締め高々にあげていた。


それに反応するかのごとく民達は、


「戦勝万歳、戦勝万歳」


「流石、我らの殿様」


「よ!奇才の黄門様」


「織田の名軍師」


などと声をかけてくれたが反応に困ると言うのか出来なかった。


それはやはり多くの人の亡くなるのを見たからと、船中でひたすら拝んだ疲れも出て馬の手綱を握るのが精一杯だった。


それに気がついたのか、力丸と政道が俺の両脇をガッチリとガードしている。


落馬しないようにだろう。


そうしてようやく近江大津城の門をくぐった。


「お帰りなさいませ、御主人様」


と、茶々が声を出すと一列に並んでいた茶々、お初、お江、桜子、梅子、桃子が馬に寄ってきた。


両脇の空いた俺は城に入った安堵感からかふらつき、落馬した。


それを間髪いれずに走ってきて受け止める、お初、梅子、桜子。


「しっかりしなさいよね、戦から無傷で帰ってきた大将が落馬で怪我をしたら馬鹿みたいじゃない」


と、お初に叱られてしまった。


あぁ、我家に帰ってこれたんだ、そう思うと不思議に涙が溢れでる。


「城だ、我が家だ、帰ってこれた、帰って来た、ぬわぁぁぁん」


こっぱずかしさなどない、今は泣きたい、家族になら泣き顔も見せたって良いだろう。


鼻水を滴ながら、みっともなく泣き叫ぶと、六人の美少女は黙って抱き締めてくれた。


「御主人様、気が済むまでお泣きください。門を閉めよ、御主人様の今の姿こそが本来の人としての心を持つ者の姿ぞ、敵とは言え人を殺めて平然になるな、慣れてはならぬのだ、皆の者良く聞け、戦勝に浮かれて宴会などは、この茶々が許さぬ、皆、一週間の喪に服せ」


と、茶々が号令していた。


浅井三姉妹、敗戦を知っている、落城に会っている、仲間、家族、家臣を亡くす辛さを知っている。


だからこそ出る言葉なのだろう、今の俺の気持ちを良くわかってくれている、ありがたい妻だ。

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