第148話 南下作戦

1586年8月9日


勿来を出発して大津の港沖で艦隊は集結し、大北川の河口まで進むと、伊達と相馬の旗印を海岸線で振っているのが見える。


伝令がしっかりと伝わっているのだろう。


「嘉隆、これより常陸の指示を聞き砲撃援護を開始せよ」


そう、信長が言うと信長は自室に引きこもったら。


また、船酔いみたいだ。


「九鬼殿、よろしくお願いいたします」


「では、山側の隠れていそうな敵を海側に出さないように出来るだけ陸地内部に砲撃を開始します」


「はい、出来れば無駄撃ちはせず何発かに一回は空砲でも良いと思います。要はこの艦隊の存在と砲弾がとどくぞ、と、言うのを見せつければ良いのですから」


「御意、皆の者、聞け、砲弾は敵に当たらずとも良い、陸地内部に届くよう弾は狙え、攻めこんで来てからは容赦なく狙って殲滅せよ、かかれー」


と、九鬼嘉隆は命令を下すと艦隊は一列になり、海岸に沿って進みながら大砲を撃ちはなった。


射程距離の長いライフル砲からは実弾が撃たれ、射程距離の短いフランキ砲からは空砲が鳴り響く。


その音は恐らく常陸にいる兵などは初めて聞くであろう、雷鳴のごとくの響き、そして、地上では着弾した弾で地響きと土ぼこりが舞う。


山に隠れ降りてこようとする敵兵がいると思ったが、まったく現れず、むしろ先鋒の伊達成実と相馬義胤の騎馬が荒れ狂っているように見える。


作戦失敗かと思うと、二人の赤い甲冑の騎馬武者が現れ、混乱する騎馬達を抑え先頭に立った。


すると、俺の旗印の深い緑色の旗に抱き沢瀉の家紋が見えた。


「なるほど、二人は慶次と幸村か」


一人言のように言うと隣にいる力丸が、


「と、思われます、御大将はなにかを危惧しておられたようですが、あの二人なら大丈夫です。御自身の家臣を信じてください」


と、言われてしまった。


伊達政宗と前田慶次、真田幸村は俺が知る時間軸では敵味方だが、今は味方同士、立場が違えば戦国武将はライバルにはならないわけだな、と、思った。


砂浜近くで


「あいや、待たれよ、先陣は我等、伊達藤五郎成実が勤め、常陸中納言様の軍は引かれよ」


と、政宗と同じ形の黒漆塗五枚胴具足を着けているものが叫んでいるのが聞こえた。


兜の前立てをよくよく目を凝らしてみると、百足の前立て。


「伊達藤五郎成実、伊達一門であり、小十郎を右腕とするなら政宗の左腕と呼ばれる重臣、慶次、幸村、仲良くやってくれよ」


と、一人呟き祈った。


1586年8月12日


先鋒の争いもなんとか丸く治めたようで、夜は砂浜で陣を組んで休み、昼間は艦砲射撃の援護で南下する作戦は、これと言った戦闘は起こらず順調に進み、久慈川河口近く北側の山の大甕神社付近に本陣を置き伊達・相馬軍は陣を構えた。


決戦の地は、坂東平野の北の端となるように。

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