第146話 独眼竜・伊達藤次郎政宗
その男は若いながらも強く迫力ある人物だった。
右目には黒い革の眼帯をし、漆黒の甲冑、黒漆塗五枚胴具足に三日月の前立ての兜が青々とした勿来の山の中でも一目でその人物だとわかった。
奥州の覇者・伊達藤次郎政宗
意外と背は低く170センチないくらいだろうか・・・・・・謙さん若い・・・・・・。
「殿、お連れいたしました」
と、小十郎が言うと伊達政宗は俺達の前に片膝を着いて、
「初めて御意を得ます伊達の当主、藤次郎政宗にございます」
と、言う。
かっこいい、織田信長に森蘭丸兄弟に真田幸村に前田慶次が身近で接してきているが、あこがれの武将はやはり違って見える。
って、おい、蘭丸、力丸、俺の前に立って邪魔をするな。
「で、あるか、信長である」
と、信長は言葉少ない挨拶をすると足軽達が船から下ろした椅子に座った。
俺も信長のすぐわきの下座の床机に腰を下ろす。
「近江大津城城主、中納言黒坂常陸守真琴です。会いたかった会いたかった会いたかったイエスッ・・・・・・キ・・・・・・・」
って、蘭丸と力丸がなぜだか必死になってブロックしてくる。
「これはこれは小次郎が世話になっており、ありがとうございます。おかげさまで伊達の家督相続も滞りなく済みましてございます」
と、言ってくる。
前でブロックするかのように立つ蘭丸と力丸の肩に手を置き、大丈夫だと知らせる。
そうだよ、仮にも中納言、小次郎政道も預かる黒坂家当主、政宗に会えたからと言って取り乱しては駄目なんだよ俺は。
「輝宗殿は息災ですか?」
「はい、米沢にて留守居を務めてもらっています」
「それは良い、輝宗殿は良き御人、大切になされよ」
と、当たり障りのない言葉を出すと、蘭丸も力丸も床机に腰を下ろした。
こっちに来て5年近い付き合い、俺のことをよく知っている二人、俺が大好きな武将の名を上げた時に一位に伊達政宗の名を出したことも知っている、だからこそ俺の興奮を感じてしまったのだろう。
変なことを口走らないように。
って、少し息を整えて落ち着くと信長のなにやらあきれているのか怒っているのか不思議な視線を感じたが気にしないでおこう。
「なにもありませんが、茶と季節の枝豆をすりつぶしたずんだ餅をお召し上がりください」
と、言って目の前の机に出してきた。
ずんだキターーーーーーーーーーーー。
「政宗殿自ら作られたのですか?」
「はい、先ほど港に船が見えましたので餅を搗き枝豆をすりつぶしたばかりにございます」
口に入れると何とも言えない青っぽい枝豆独特の風味、砂糖など入れていないので少し微妙だが、
「美味い、ずんだ美味し」
と、褒めると信長は「そうか?」と、言う冷ややかな視線を俺にぶつけてくる。
「大津中納言様の料理上手は噂で聞いております。ぜひともご教授願いたい」
ん?なんか、俺、千利休の立ち位置?
伊達政宗が豊臣秀吉の小田原城攻めに参陣したとき千利休に茶を習いたいと言ったという話は有名なのだが、俺が政宗に料理を教えるルート、想像していなかったな。
「そんなことは、後にせい、蘭丸、進軍の道筋を説明してやれ」
と、信長が言うと蘭丸が机に俺の書いた地図を広げ、南蛮型鉄甲船艦隊艦砲射撃沿岸南下作戦を説明している。
俺はそれよりも政宗手作りのずんだ餅が重要で舌鼓を打つのに専念していたら、信長に扇子で小突かれた。
ごめんなさい。
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