第133話 待ち人

水平線に上る朝日が部屋を照らし、閉じた眼に白い眩しい日差しが入ってきたので目を開けると、船は錨を下ろして帆は畳まれ停泊しているようだった。


「どうした?」


と、先に起きていた蘭丸に声をかけると、


「上様は待っておられるのですよ」


と、言う。


船の上、陸がギリギリ裸眼で見えるかどうかの位置で何を待つと言うのか?


海流?風?嵐?


朝飯の握り飯を食べて、一時間ほどしても動きがない。


二階にいる信長を覗いてみると、目を閉じ胡座をかいて腕を組みじっとしている。


その部屋の片隅に座ると、


「常陸、来ると思うか?」


目を閉じながら言う信長、心眼でも持っているのか?


「えっと、何がですか?」


「馬鹿か!」


久々に言われた。


「いや、海の上で何を待つのですか?風?嵐?海流?夜?なんだかわからないではないですか」


と、言うと、


「ここは三河沖ぞ」


「あ!徳川家康」


「そうだ、家康を待っておる、あの男、滝川一益に援軍を命じたら、地震の被害を理由に動けないと断ってきおった、しかし、それは許せぬ、よって僅かな手勢で良いから船を自らだせと命じたのだ」


徳川家康は北条に娘を嫁がせて同盟関係になっている。


この戦いがおそらく日本国内の最後の戦いになるだろうことは、予見できる。


北条と手を結んで、反旗を翻すか、謀叛とならないまでも自分に都合の良い条件を引き出させようとするのは必定だ。


「来るとは思いますが、やはり少しでも自分に有利になる条件を引き出さしたいはずでは?」


「やはりそうなるだろうな、だがそれは許さぬ」


と、目を開いて鋭い眼光を陸に向けた。


「なら、脅してみては?この南蛮型鉄甲船の船団を見せれば有無を言わないはず」


「よし、動くぞ!九鬼嘉隆、浜松城近くまで船を進めよ」


と、ひときわ大きな声、船内すべてに響くだけの声で命令を出した。


「はい、かしこ参りました」


と、返事が帰ってくると帆は張られて錨をあげて船は動き出した。


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