第114話 鍛冶師
桜の葉が散り、紅葉も赤く色づき始めた頃、あるものを買いたく大津の城下に買い物に出た。
付き添いは、力丸と政道とお江も付いてくる。
他にも力丸の家臣が何人か遠巻きから護衛をしてくれている。
うちの町は治安は氏郷が厳しく取り締まっているせいか、比較的良いらしい。
俺が入城の時に、ハッタリ火縄銃で脅した効果もあるらしい。
最近のお江は一番の甘えん坊、なにかと付きまとってくる本当に妹みたいで可愛いから良いのだが、義理の妹だから義妹で、よいのか?
茶々とお初は正妻と側室『お方様』、それなりに仕事があるらしく遊んではくれないみたいだ。
当主の俺が一番暇ってのもおかしなものだが、平和な証拠なのだろう。
今日は学ラン型の服ではなく、目立たないよう一般的な武士の服装の袴姿に太刀を腰に差している。
大津の城下町は今井宗久・津田宗及・千宗易の大商人の大津支店の店があり、氏郷と協力してくれていて短期間ではあったがそれなりの体裁が整い繁栄し始めていた。
そんな町を物色しつつ、鍛冶屋が集まる集落に向かった。
トッテンカン、トッテンカン、トッテンカン、トッテンカン
と、5人ほどの職人が真っ赤になった鉄を必死になって金槌で叩いていた。
チラリとこちらを見るが、熱くなっている鉄が大事なのだろう、必死になって叩いている。
力丸が声をかけようとするが、止めさせた。
お江は目をギラつかせ見ていた。
こちらは約束も無しに訪ねたのだから相手の都合に合わせるのが礼儀、それが領主の俺でもだ。
横に木の長い椅子が有るため腰をおろして見ていた。
しばらくして、一人が熱く焼けた鉄を水につける。
ジュワー
っと蒸気があがった。
「お侍様、なんか御用ですかい?今は領主様が鉄砲を大量に発注して忙しいんですが」
俺は入城したときのハッタリ火縄銃から兵装を整えるため、発注をした。改良型火縄銃、発注をすると国友村と堺から何世帯か移住してきて、鍛冶屋が集まる集落が大津城下町に出来た。
その鍛冶屋の元締めの店に来ている。
「あ~わかっている。発注主がここにおられる」
と、力丸が言う。
「はぁ?お侍様、ばか言わないでくんれ、お殿様がこのような所に来るわけねぇ~べよ」
と、鍛冶師の一人が汗を拭きながら、水がめの水を柄杓(ひしゃく)で飲んでいた。
「はははははっ、すみませんね、黒坂常陸守、本人です」
と、俺が言うと。
柄杓を落とした。
「ほんまでっか?」
「はい、本当にです。ちょっと頼みたい品が有りまして」
「へっへい、なんなりと申し付けてください」
と、片膝を着いて俺の前で頭を下げた。
懐から、あらかじめ書いておいた絵図を渡す。
「へい、これは何でしょうか?」
「鉄製の竃(かまど)なんだけど、ストーブって言う物なんだ、これを三つほどお願いしたく」
絵図面をしばらく見る元締めの鍛冶師。
今回作って貰いたいのは8を横に寝かせたというか、ダルマを横に寝かせたと言うのかずんぐりむっくりした形のストーブ、釜が2つ乗せられる構造。
「竃って言うからには炭ではなく木を燃やすのですね?」
「そう、薪を燃やすやつで部屋に置きたいわけです」
「なるほど、だからこの煙り出しの筒がついているわけで」
「わかってもらえる?」
「へい、しかし、一つならまだしも三つとなると時間がかかりますが」
俺の住居の東御殿と隣の西御殿、信長が寝泊まりする御成御殿に設置したいのだが、仕方がない、冬に間に合わなければ意味がない。
「なら、一つだけは冬までに間に合うかな?」
「へい、試作をしてみないとなりませんが一月(ひとつき)あれば作れます」
「では、正式な発注だからね、力丸、手付けのお金を」
と、言うと力丸がどっさりと重そうな袋に入った銅銭を渡した。
やはり銅銭をどうにかしないと支払い重すぎるから。
「お殿様の御注文でしたら、金は後払いで構いませんが」
と、元締めが言うが、
「いや、鉄大量に仕入れないとならないから使うでしょ?ちゃんと客と店の関係と言うことで領主の俺でも気にしないで良いから、それと、城に入れる品だからって無理はしないで大丈夫だから、初めて作る品なんだから」
「鍛冶師として、しっかりしたものを作らせていただきます」
と、両腕の力瘤を見せる鍛冶師の元締め、格好いいマッチョマンだな。
俺が発注したのは、だるまストーブ、うちの祖父母の家で平成でも現役に活躍してたから、よく覚えている、暖かいんだよ、煮炊きも出来るし、今回は薪を燃やす予定だが、いずれは石炭にしたい。
ふふふ、これで今年の冬は暖かいぞ。
火鉢、手ぐらいしか温められなくて寒いんだもん。
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