第113話 ルイス・フロイス

 ルイス・フロイス

1532年?月?日 生まれ 53歳

ホルトガル人・宣教師

安土幕府公認南蛮寺総代


大津城、二ノ丸謁見の間に幸村が連れてきた人物で、黒ずくめのいかにも宣教師と言う服を身に纏い、背は俺と同じくらいであろうろ180センチほど、紙はライトブラウン、目は大きく青い瞳をギラつかせている。


謁見の間は上下段に分かれた部屋で板の間だが、椅子とテーブルが並べてある。


俺が上段の間の襖を開け中に入ると椅子に座って待っているルイス・フロイスは立ち上がった。


この時代でも、南蛮人は時々見かけるし平成の世では英語教師として学校にも来ていたのでさしたる珍しい者でもないが、俺の後ろに隠れながら背中から、ヒョイッヒョイッと顔を出している、お江には珍しいのだろう。


好奇心旺盛なお江は見たくて見たくて仕方ない様子。


「どうぞ、お座りください」


と、言うが俺が座るまで座らず俺の後に座った、俺の背中にはお江がチョコチョコと隠れてる。


「初めて御意を得ます、ルイス・フロイスにございます」


と、流暢な日本語で話してくる。


「大津城城主、中納言黒坂常陸守真琴です。どうぞ、気を楽にしてください、なんでもトウモロコシ栽培に手を貸していただいたとか、ありがとうございます」


「コーン栽培など簡単なものにこざいまして、とんでもございません、黒坂様には恩義がありますので」


「恩義?」


「はい、上様が南蛮技術を使った船の建造を決められたとき、私に協力を求めてきました。見返りは南蛮寺総代としての地位と布教の自由です」


なるほど、信長はルイス・フロイスを公認宣教師と認め地位を約束することで力を借りたのか。


「しかし、中納言様がなぜに我々の祖国の情勢を知っていたのか教えていただきたい」


そう、ヨーロッパでは宗教対立と海の覇権争いが激化するのが15世紀末期から17世紀初頭のこと、それを利用するべきだと信長に進言している。


「秘密の情報網とだけ言いましょう」


「秘密ですか?それを聞きたい、あなた様には何やら不思議な気を感じる」


宣教師、神の御加護を受けているというだけのことはあるのか?


「ははは、戯れを」


と、笑い飛ばす中、背中に隠れているお江が、ルイス・フロイスに近づき間近に行って見始めていた。

 

こんな時、気まずくなりかけるときには、浅井三姉妹は決まって活躍してくれる。


徳川家康の時もそうだった。


「すみません、好奇心旺盛な子供なので」


「構いませんよ、子供はみんなこう言う者、見慣れぬ物には興味がでる、髪触ってみます?」


と、近づいているお江に頭を下げるとお江は軽く触った。


「わ~すごい、黒じゃないんだね、なんで目も青いの?なんでなんで?」


と、聞くお江に対してルイス・フロイスは優しい微笑みで、


「なんででしょうね、神ゼウスがお作りになられたとしか、妹様ですか?」


「えぇ、妻の妹でして、信長様の姪ですよ」


大きな瞳をさらに大きく見開き、


「上様の姪御様でしたか、仲良くしてくださいね」


と、お江に微笑むと、お江はその顔を指でツンツンとしていた。


「お江、無礼はいけませんよ」


と、言って茶々とお初が料理を運んできた。


絞めたて、毟りたて、捌きたて、揚げたて自慢の唐揚げと、カレーライスと豚汁だ。


さらに、来客用にワインを用意してある。


それを出すと、


「オウ、これはゴアで食べたことがあります。カリィーですか?」


やはり知っていたか、しかし、これはごまかそう。


「独自に編み出した薬膳料理ですよ、食欲増進、血流改善、滋養強壮に、あみ出しましたね、さあ、温かいうちにお召し上がりください」


というと、食べ始める。


「やっぱり、ゴアで食べた物だ、あなたはこれをどこで知った?」


慌てているのか口調が少し乱れる。


「秘密です」


「マコがなんか、薬草組み合わせて作ったんだよ、美味しいでしょ」


と、お江が再び助け船を入れる。


「あなたは、不思議なお方だ」


「ルイス殿、大津の町での布教は条件さえ飲み込んでいただければ認めます」


ルイス・フロイス、織田領内で布教は許されているが、城下となれば、そこの主にも許しを求めねばならない。


「条件ですか?」


「はい、俺についての詮索はしない、徒党を組んで武力を持って何かをしでかそうとしない、強引な勧誘をしない、他宗教と争いごとはしない、日本国の政治体制に批判的活動を行わない、以上5つです。これは、いずれ信長様に言上提案いたしますので、幕府の宗教に対する法になります、仏教でもゼウスを信じるあなた方も神社もです」


「わかりました、戦乱が治まった国を乱すことなかれと言うことですね」


「はい、そういう事です。守ってさえ下されば、いずれバチカンにも友好の使者を送ることになりましょう」


「友好の使者ならいつでも歓迎します」


と、言いながら出されたカレーを全部食べた。


「美味しいかったです、また食べに来て良いですか?」


「はははっ、城で勧誘は困りますが、お江たちに異国の話など聞かせて見聞を広げさせてくれるのなら良いでしょう」


「ありがとうございます」


と言って、ルイス・フロイスは帰っていった。



安土幕府宗教法度


徒党を組んで武力を持つことを禁ずる

強引な勧誘を禁ずる

他宗教と争いを禁ずる

幕府政権批判を禁ずる


俺が提案した法度は安土城に送られるとすぐに発令された。


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