第109話 銭・天正和円
安土暦奉行と言う役職に就いた俺は、安土城内にある政務を執り行っている三ノ丸政調方に出入りする。
まぁ~俺は領内自由の天下御免の約束があるから入ろうと思えば入れるのだが、用もないのに入ったりはしなかった。
知らないおっさんたちが、せっせと働いているのを見ても、面白みはない。
それどころか、俺に隙有らば近づこうとするもとばかりで気分が良いものではない。
しかし、中納言と言う官位と常陸守と言う官職、織田家一門衆にさらに幕府での役職として安土暦奉行とまでなれば、俺には気軽に話しかけられない存在となったようで、話しかけてくるものは極々わずかになった。
三ノ丸政調方をとにかく、ブラブラする。
目的が有ってないような物、兎に角現状を見て聞いてなにか信長の幕府の役にたつことがないかを見ていた。
俺の後ろに信長側近、黄母衣衆筆頭の坊丸が案内役に俺の家臣の力丸、宗矩、政道にさらにその下の家臣が10人程連なる。
まるで大学病院の教授の総回診行列、黒坂教授の総回診だ。
まぁ、政調方ではそのような事に気にせず真面目に働くものばかりであった。
「銭が足りないぞ」
「金は佐渡、銀は石見を領地にしたのだから大量にあるだろ」
「南蛮から灰吹法も学んだのだから、金銀の心配はない、ないが、銭その物が足りないぞ」
と、聞こえてきた。
現在、一般流通貨幣は銅銭で基本的には中国から輸入された銭の宋銭や明銭が流通している。
そこに、独立国家だった各地の戦国大名が私銭を発行していた。
通貨偽造と言えば通貨偽造だが、中には武田信玄で有名な甲州金もある。
金貨なら金その物に価値がある。
織田信長は楽市楽座に合わせて、選銭礼を出して粗悪な銅銭も貨幣価値を認めている。
粗悪な銅銭は何枚かで、一文銭と同等の価値とする。
それがセットで流通経済が繁栄するのが、信長の政策。
しかし、今は数々の城の普請により人足に払う給金に多量の銅銭が必要となっている。
「無いものは作れば良いのでは?」
と、ひと言言うと、
「中納言様、御発言は上様の前だけで」
と、坊丸に止められた。
そう、俺は信長に考えたことを提案するのが仕事であり、さらに不用意に発言すれば歴史を変えてしまう可能性が高い。
坊丸はすぐに、信長と会う時間を作った。
「信長様、貨幣、銭が足りないならって言うか、いつまでも中国などの他国の銭を使っていないで、日本国独自の貨幣を流通させるべきです。幕府が発行する貨幣」
「未来ではどうなっている?」
「はい、日本国の貨幣は『円』と定め一万円、五千円、二千円、千円が紙でできております。五百円、百円、十円、五円、一円が金属で出来た貨幣です」
「紙幣か紙幣は無理だな」
「はい、私もそう思いますし、大量に鋳造するなら多くの種類は作るべきではないでしょう。そこで金銭、銀銭、銅銭の鋳造を開始します。十進法が一番わかりやすいと思うので、銅銭10枚で銀銭1枚、銀銭10枚で金銭1枚と致すのが宜しいかと、幕府が貨幣の発行を一手に行い他を禁止すれば幕府の力は磐石な物となりましょう」
「あいわかった、やらせてみようではないか、兎に角、幕府が貨幣の発行を一手に支配することこそ重要、あとの事は餅は餅屋、商人どもに声を聞いて鋳造を開始する通貨は『天正和円』とする、天下をあるべき姿に正し和国の流通を円滑にする」
「なかなか良いかと思います」
その後、幕府は銭の鋳造を正式に始め、貨幣の統一を段階的に進めた。
今井宗久・津田宗及・千宗易のいつものメンバーに茶屋四郎次郎なる者他数名が幕府造幣方に任命された。
って、奉行はまた俺、汗マークを使いたいよ。
幕府造幣方奉行・安土暦奉行・・・・・・。
肩書きが長いのは憧れだ。
そんな俺の肩書きをつけた名前は、
従三位中納言幕府造幣方奉行兼安土暦奉行平朝臣黒坂常陸守真琴
(じゅさんいちゅうなごんばくふぞうへいかたぶぎょうけんあづちこよみぶぎょうたいらのあそんくろさかひたちのかみまこと)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます