第108話 暦
しばらく安土に逗留を決めると、信長を悩ませていることの一つに暦であることを蘭丸から耳にした。
暦お兄ちゃんが出てきて、数々の怪異事件で頭を悩ませているわけではない。
カレンダーだ、戦国時代、地方によって様々な暦を用いている、日本国内でも地方によっては日付が違うなどと言う事がある。
その暦を統一しようとしている織田信長に対して、朝廷の猛反発にあっていた。
力でねじ伏せるのは容易いが、力でねじ伏せて取り入れた暦を受け入れられるのか?新しい国造りが全て力で押し通すなら長期的安定的政権を作れないことは、歴史を見ればすぐわかる。
平将門の平清盛など。
その為、新しい国造りには力でねじ伏せるのを極力避けている信長。
俺はそれを聞いて、自室でまだ奇跡的に動いている耐久性だけが自慢のスマホの日付を見ていた。
『1585年4月11日21時03分
天正13年3月12日・友引・木曜日』
なぜに安土桃山時代のカレンダーまで表示するのかわからないアプリを見ながら。
西洋暦と和暦の両方使うんだよな、日本って、意外にも平成でも和暦として残って二十四節季とか使ってるし、六曜だって宗教も信じてないのに、大安だ、仏滅だ、なんて気にしてるし、日本って本当に面白い進化するんだよな。
と、考えていた。
西洋暦と和暦を両方活用する国。
元号ですら廃れずに続くのだから面白みがあってよい気がする。
流石、国家として存続している一番古い国なだけはあるのか?寛容さが大きい国。
って言うか、太陰暦はずれが大きすぎるのだから、太陽暦、グレゴリオ暦で統一してしまえば良いのに。
よし、これを提案するか。
登城の約束をしてから、二日で呼ばれる。
安土城天主最上階。
「暦の事に提案があると聞いたが?」
「はい、信長様は朝廷が定める京暦を三嶋暦に変えようとしていますが、そんな物、未来の俺に言わせれば五十歩百歩、どちらも月を主体とした暦で、大きな違いはありません」
「常陸、未来の暦はどうしているのだ?」
「はい、一年を地球が太陽の周りを一周する約365.25日としているグレゴリオ暦と言う南蛮暦を採用しています。これを使うと夏至冬至、春分秋分の誤差は大きくなく毎年ほぼ一緒、農耕を生業とする今においては大変便利な物でございます」
「で、あるか」
少し不機嫌そうに言った。
俺が三嶋暦を否定したのが気に障ったのだろう。
「で、俺のいた日本では旧暦と言って和暦は残っていて、占いや、祭事、伝統行事を執り行うのに使われています。で、信長様も安土幕府統一暦をグレゴリオ暦と定め、祭事行事用は朝廷が発行する暦を採用すれば良いのです。正確な暦と日本の伝統を両方使う、良くないですか?」
「暦制定の二分化だな、となれば、朝廷の権威として残されている暦を定める力も二分化できるな」
えっと、そこまでは考えていなかった。
だいたい日本が、グレゴリオ暦を採用したときって明治時代だけど、王政復古を宣言しておきながらなぜに暦を改めたんだっけ?あれ?江戸時代にすでに幕府が暦を決めていたのではなかったかな?確か安井算哲っていう人が主役の映画見た気がするが、ちゃんと本読んでおくべきだったな。
「だが、その基準となるグレゴリオ暦とやらがわからぬが」
「えっと、ほら覚えてます?信長様が使えぬものなどゴミだと言ったこれ?」
と、言ってスマホを取り出す。
「暦は俺のほうで作れますよ、これが基準になるから」
「その板でわかるのか?」
「はい、今は『1585年4月13日15時28分
天正13年3月14日・仏滅・土曜日』にございます」
「常陸、新たな役職を申し渡す、幕府陰陽奉行とする」
「いやいやいや、陰陽力ですらお遊びってあの時否定したじゃないですか?」
「陰陽とはもともと暦をつかさどる者、星を観測し暦を作る者ぞ、常陸の言う陰陽力とは別物」
「それって、決定事項なんですよね?」
「わかっているなら聞く必要がないではないか」
「なら、暦奉行に改めてください、俺は寒い中、星をずっと観測する仕事はしたくないので」
「常陸が観測する必要ではないではないか、その板を見ればよいのだから、だが、仕方あるまい安土暦奉行といたす。とっにその寒がりをどうにかせい」
そう言って信長は出て行った。
『1585年5月1日
天正13年4月2日・大安・水曜日』
織田信長は、幕府が制定する幕府制定暦『太陽基準暦』を発令した。
朝廷には祭事暦として陰陽座が決める暦を発行することを認め、生活の基準とする暦は幕府制定暦『太陽基準暦』を使うように命じる。
数年は混乱があったが農耕を基本とする日本国に置いて、ほぼ正確な幕府制定暦『太陽基準暦』は農民を中心に受け入れるようになった。
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