第103話 安土幕府

 大津城に冬眠するかの如く引きこもっている俺に茶々はあきれ顔だった。


本当に寒いのが苦手なのだから仕方がない。


そんな籠っていると、織田信長が京の都から安土に帰る途中に大津城に立ち寄った。


出迎えると、


「なかなか良い城に出来上がったではないか?」


と、周りを見ながら言う。


「はい、寒いのが難点ですが」


「そんなに寒いのが嫌なら、今後の働き次第では温暖な国を与えるぞ、励め」


と、信長が言うが、温暖な茨城県に住みたいが今現在、常陸の国は臣下となっている佐竹義重の領地なのだから無理だろう。


織田信長は恭順した者には領地安堵をするのだから。


そんな話をしながら、奥ノ二ノ丸に作られた織田信長用宿舎、御成御殿に案内する。


御成御殿の広間は総畳敷き、上段の間と下段の間に分かれており、上段の間には謎の彫刻師に今にも飛び立ちそうな鳳凰が彫られた金箔が装飾された椅子が置いてある。


そこに信長が腰を下ろす。


「なかなか良い椅子だな」


と、褒めてもらえた。


俺たちは下段の間に長いテーブルと椅子が置いてありそこに座った。


「南蛮式か?」


と、信長が聞いてきたので、


「はい、椅子とテーブルのほうが落ち着くので」


と、答えた。


「未来では畳は高級品化?」


「いえ、畳は一般的なものですが生活の様式が変わって畳はすたれていきます」


「そうか、生活の仕方が未来は変わるのか?」


「はい、絡繰り物が掃除洗濯料理までしますから」


と、答えると皆が不思議な顔をしていた。


この場には、信長、俺、蘭丸、力丸、坊丸と茶々だけと言う俺の秘密を知る者しかいない。


そんな中でも、俺と信長の理解しがたい話に割って入ってくるものはいなく、一生懸命、脳を働かせて想像しているようだった。


椅子に座ってからほどなくして政道がお茶を運んできた。


「ん?見慣れぬ者だが?」


と、言う信長。


「政道、御挨拶を」


「お初にお目にかかります、伊達輝宗が子、伊達小次郎政道にございます」


「ほお、輝宗の子か」


「ご報告が遅れてすみません、輝宗殿が家中に置いておくと跡目争いの火種になると申すのでしばらく預かることといたしました」


「兄弟の跡目争いは戦国の世では当たり前にあることだからな」


と、どこか遠くを過去を見るように言う信長。


織田信長も弟と家督争いの戦をしているのだからだろう。


「政道、さがりなさい」


と、俺の秘密を知らない政道を退室させた。


「さて、常陸が申したように安土を拠点として幕府を開くが良いのか?」


と、首都となる拠点の話を始める信長。


「はい、海から離れた地でありながら水が豊富なこの琵琶湖は理想、安土、大津、長浜、大溝、賤ケ岳、牧野の城を水運でつなげ一極集中を避けた街造りを提案します。徳川家康が作った江戸は後の世では密集して美しくなく、また、災害に弱い街となりましたから」


「未来の知恵を知っている常陸の考えなら無視もできぬな」


「あと、東にも拠点として常陸の国の霞ケ浦、北浦と呼ばれる湖がありおすすめなのですが」


「常陸の国か、佐竹義重の領地だな、あの者上洛を命じたのに年端も行かぬ弟を代わりに上洛させおって、黒坂に常陸守を名乗らせているのが気に入らないのであろう」


「なんか、すみません」


「常陸が謝る事ではない、その分の働きはしてきたのだからな、しかし、佐竹義重、このままではどうにかせんとな」


と、険しい顔をする信長。


「今は恭順しているので、東より西の制定を優先させるべきです。特に嫌いな島津を」


「常陸は島津が嫌いか?長宗我部は?」


「はい、子孫が武士の世を終わらす立役者になりますので、長宗我部は江戸時代にはすでに滅びていますから」


と、答えると不思議そうな顔をしていた。


「いずれにしても歯向かう島津は滅ぼす」


と、鬼の形相を見せる信長。


島津は九州を統一しようと領地拡大の戦を繰り返していた。


今は、下関に羽柴秀吉が九州攻めの拠点を作っている最中。


城が出来上がれば、本格的に九州討伐が始まるのだろう。


信長は話が済むと安土城に帰っていった。



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