第102話 伊達輝宗の息子
俺は織田信長の征夷大将軍宣下の儀が終わった翌々日には早々と大津の城に戻った。
京の銀閣寺城で寒さに堪えながら引きこもりになるには、城内に人が多すぎた。
俺に面会を求めてくる武将や公家が多い多い。
一人に会えば他にも会わないとならならなくなるため、誰とも会わずに銀閣寺城を脱出した。
蘭丸に伝えると、信長から帰城の許しはあっさりと出た。
大津城に帰ると、囲炉裏の前から離れない日々、茶々が呆れていた。
一週間ほどして、大津城に客人が訪ねてきた。
「伊達輝宗様が、帰郷されるとのことで是非、御挨拶をしたいと申しておりますが」
と、宗矩が伝えに来る。
伊達輝宗、大好きな武将の父親、以前、織田信長に臣下の礼に安土城に登城したとき、料理を振る舞って気に入って貰った事もあったから会いに来たのかと思い、二ノ丸にある広間に案内させた。
流石に、熊の毛皮姿で出るわけにも行かないので、火鉢を幸村に真横に運ばせながら二ノ丸広間に入った。
下座で土下座をしている伊達輝宗と、若者一人が目に入った。
ん?もしかして、伊達政宗?片倉影綱?伊達成実?と、好きな武将ではないかと期待する。
「面をあげてください、輝宗殿、寒くないですか?幸村、火鉢をもっと頼む」
と、官位が上であり織田家一門衆として少し上から目線の挨拶をする。
仕方がない、これがこの時代なのだから。
と、輝宗が面をあげる。
「帰郷いたしますので御挨拶と頼み事がありまして」
と、言う輝宗。
「頼み事ですか?何でしょう?」
「はい、我が息子を家臣として預かってはいただけないでしょうか?」
キター、まだ戦国時代末期人気武将オールキャスト家臣ルート継続中?
少し興奮する、だって輝宗の息子と言ったら政宗でしょ?
え?でも、嫡男なのに良いのか?
「え?」
と、ちょっと真の抜けた声が出てしまった。
「小次郎、御挨拶を」
と、輝宗が言う。
すると、輝宗の右後ろに座っていた青年が面をあげた。
あれ?右目がある。ん?
優しい表情に独眼竜と呼ばれる雰囲気を感じない。
「伊達輝宗が次男、伊達小次郎政道にございます」
「弟のほうですか?」
「はい、実はこの度、隠居をいたしまして嫡男の藤次郎政宗に家督を譲る事を上様から御許しが出ましたのですが、お恥ずかしい話、家中には小次郎を推す声もありまして、争いの火だねとなりそうなのです」
伊達輝宗は確かに若いうちに家督を政宗に譲っている。
伊達家は稙宗、晴宗、輝宗と代々家督相続で争いが起きている。
輝宗はそれを危惧したのと、政宗の器量を見込んで家督を譲る。
譲ったあと、政宗が母親に毒殺されそうになり政道を謀叛人として処罰して七代の追放と言う死んでも罰せられる。
しかし、時代は改編されてしまっており先が見えない。
「家督争いの火種を消すためと言うなら、上様の小姓に推挙してはいかがですか?」
俺より信長の家臣にしたほうが良いのではと思う。
だって、俺の家臣だと活躍する場ないし。
「義(よし)が良しと言わないのですよ」
「ん?駄洒落?」
「洒落では御座いません。上様にお仕えすれば命のやり取りは必定、その為、小次郎を溺愛する我が妻が許さず、戦に行かぬのに出世している大津中納言様にならと」
「なるほど、ただし俺の家臣だと戦場に出る予定はないので出世の可能性は極めて薄いですがよろしいですか?」
「かまいません。このまま奥州に置いとけば間違いなく家中の争いの火種になりますので」
と、輝宗は神妙な顔で俺の目をガッツリ見つめる。
「わかりました、では、伊達家が政宗殿で纏まるまでお預かりいたしましょう」
まぁ、現状は右筆(秘書)が宗矩だけってのは大変だし、城も預かる身だから家臣は居ても困らない。
「よろしくお願いいたします」
と、頭を深々と下げる伊達小次郎政道。
また、一人家臣が増えた。
輝宗は、一晩大津城に泊まったのちに奥州、米沢城に帰っていった。
◆◆◆
主人公・黒坂真琴の格下の者からの呼び方は『常陸様』もしくは、『大津中納言様』になります。
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