第75話 真っ赤なマント

織田信長に徳川家康が来たことを茶々から報告してもらうと翌日に呼び出された。


茶々が案内するなか茶室に向かう。


もう、何回も来ているから案内必要ない気がするが、実感がないとはいえ、俺の妻の茶々が住んでる場所でもあるのだから仕方がない。


茶室は火鉢には墨がおこされており暖められていた。


信長が来る前に、茶々がお茶を点てた。


飲んで何も言わないでいるとあからさまに不機嫌になる茶々なので、


「美味い」


と、言ってあげるが心から出ている「美味い」ではないのがわかるのか、やはり不満足な顔をする。


そうして待っていると信長が入ってきて、


「わしも一杯貰おうか」


と、茶々にお茶を点てさせ飲み干した。


「ん~」


特に何も言わないのかい。


「常陸、家康はなんか言ったのか?」


「素性を探ってきましたが、茶々やお初、お江に松様に割って入ってきて貰ってごまかしました」


「そうか、常陸は家康が嫌いか?」


「人となりは、いかんともまだ知り得ませんが、家康が征夷大将軍になったあとの政策が嫌いで」


「家康の政治か?」


「はい、家康は国を閉ざしますから、鎖国と言って中国、朝鮮とオランダと限定的な貿易しか出来ないようにしました」


「愚かな、なぜそのようなことを?」


「キリシタンの広がりを抑えるが為でした。俺の世では一向一揆のようになるのを恐れたと言われています」


「一向一揆か、石山本願寺には苦しめられたわい」


と、飲み干した茶碗のそこを見つめながら言っていた。


「未来は宗教はどうなのだ?」


「日本に限定して言えば、国民全員に信教の自由が補償されていると同時に政教分離が法律、法度で定められており、政治に影響力はありません」


「政教分離と言うのか」


「信長様が、比叡山焼討ち、一向一揆を武力で討ち滅ぼしたからと言って良いと思いますよ。あのまま比叡山や石山本願寺に力があったらと思うと」


と、俺が言うと信長は明かり取りの障子戸を開け外を見ていた。


「そうか、あれがそのように影響するのか」


と、聞こえるか聞こえないかの声で呟いていた。


「家康には、屋敷には行かぬよう言っておく、それと、正月の宴席の料理の褒美じゃ、蘭丸」


「はっ、」


外に控えていた蘭丸が風呂敷に包まれた物を持って茶室の入り口に置いた。


それを茶々が広げてくれる。


ん?真っ赤な布?ん?


と、手に取り開いてみると真っ赤な厚手の布に金で揚羽蝶の家紋が入ったマントだった。


派手だ。


「常陸は寒い寒いと、火鉢に当たりっぱなしだと聞いたからな」


「ありがとうございます。安土は意外に寒くて、常陸は雪滅多に降らないもので」


と、言うと信長は口元をニヤリと緩めては何も言わずに出ていった。


真っ赤なマントや陣羽織って博物館に飾ってあるけどまさか俺が着るようになるとは。


そして、加増も言い渡された。


20万石に給金が増えた。

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