第73話  来客

  冬の近江、安土城は寒い。


安土城より北にあっても、大平洋に流れる温暖な海流の影響もあり比較的、暖かい茨城県育ちの俺には身に凍みる。


火鉢で暖まるにも日本の古式家屋は夏を快適に過ごせるよう夏仕様、すきま風が寒い。


冬は服を着こむのが基本らしい。


さらに今日は一段に寒く外には雪が降り積もっていた。


そんな中でも、俺の妻、茶々は律儀に通ってくる。


幼妻で通い妻。


お初と、お江も一緒に来る。


もともと遊びに来ているからなんら変わりがない。


天主の本丸が窮屈なのか?と、気になり聞いてみたら、お江が、


「だって、走り回ると怒られるもん」


と、少し拗ねたように言っていた。


確かに織田信長がいる中でバタバタ騒ぐのは勇気がいる。


織田信長の子育てってどんなんだろう?


最近は三法師も付いてくるのだが、今日は雪の為かいなかった。


茶々が来たからと言って特になにか特別なことをするわけでもなく、俺の軽い身の回りの事をするくらいだったが、お茶を点てるのは毎日の日課だった。


どうやら俺が心のそこから織田信長のお茶に「美味い」と、言った事に対抗心があるらしい。


茶々のお茶は決して不味いわけではないが、織田信長のお茶にはその時求めている温度、濃さ、クリーミーな泡の加減、塩梅の良さがある。


今日のお茶で言えば寒いのだから熱いお茶が飲みたいが、茶々が入れたのは温かった。


クリーミー感は良いのだけど、抹茶ラテだな。


何時ものようにお茶を飲んで、お初とリバーシーをしていると、宗矩が来客を知らせに来た。


「徳川家康様が会いたいと参りましたが、いかがいたしますか?」


って、来ている相手に「いかがいたしますか?」って言われても断れないじゃん!っと、思って少し渋い表情をすると茶々が、


「約束のない客は断っても良いんですよ。なんなら、変わりに私がお会いしましょうか?」


と、言った。


茶々、読心術マジに持ってる?


ちょっと、ハラハラするんだけど。


この時代、妻の権限?女性の地位?は、意外に高く、特に正妻なら当主の代理にもなるそうだが、織田信長が兄弟と呼ぶ同盟者、徳川家康なら会った方が良いかと思った。


「ん~、まぁ、ちょっとだけなら会っても良いかな」


「茶室にしますか?」


と、宗矩が聞いてきた。


「狭い茶室に徳川家康と二人っきりってやだよ」


「では、広間に案内します」


と、言って行った。


「慶次いる?」


「はい、ここに」


と、隣の部屋から声がした。


もちろんサボっているわけではなくぁ、俺達の護衛に控えてる。


「一応だけど、天井裏と床下よろしく」


「かしこまりました」


と、言って慶次が庭に出るといかにも忍であるかのような黒服の家臣が四人現れ、慶次が合図すると消えていった。


天井裏と床下に潜ったのだろう。


「茶々、お茶を運んできてね、苦いぃぃぃぃぃのにして」


「旦那様、陰湿ですね」


え?そうかな?


「お初、お江、頃合いを見計らって乱入してきてね」


って言うと首を横にするお江、


「マコ?」


お初は、わかったようで、


「わかりました、義兄上様」


・・・義兄上様?・・・お兄ちゃんと呼ばせたい・・・


それは後日として、タヌキオヤジと評判の徳川家康と会う段取りをした。


徳川家康、気になる存在。


万が一にも、俺の素性を知られたくない相手でもある。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る