第72話 天ぷら
俺は安土城のお台所で天ぷらを揚げている。
正確には、桜子が揚げている天ぷらを監督している。
唐揚げに豚カツ、鮭フライなどをしてきている桜子。
馴れた手つきで、溶いた小麦粉を付けては次々と揚げていた。
食材は前田利家の妻、松様に領地の日本海から頼んで新鮮な海の幸を取り寄せてもらったので海鮮天ぷら。
海老に蟹にそして、鯛。
正月だからと取り寄せた鯛がちょうど良いのか、徳川家康が来ている。
徳川家康、鯛の天ぷらが美味すぎて食べ過ぎて腹を壊して体力低下して死んだ、などと言われる逸話が残る人物に鯛の天ぷら。
少し笑える。
今日は普通の塩、抹茶を混ぜた塩、カレー風味の塩、と、大根おろしに塩を入れ柚子の皮を細かく刻んで入れた付けダレを用意した。
味見&毒味をすると美味い。
普通の塩が余計な味を付けずに、素材本来の良さを引き出し口に広がる香りが食欲を掻き立てた。
年賀の宴席は始まったらしく、天ぷらは揚げては運び揚げては運びを繰り返した。
運ぶのは蘭丸。
俺はお台所脇で揚げたてを食べている。
「常陸様、徳川家康様が会いたいと申しておりますがいかがいたしましょう?」
と、蘭丸が聞いてきた。
会わない選択肢も有るような問いだったが、会わないで宴席の雰囲気を壊すのも良くないと思い、挨拶だけと言う条件で広間に顔を出すと、屈強なオジさん達が酒を飲んでいた。
俺は、正四位下参議、意外なほどに位が高い。
あの徳川家康よりも。
なので下座の襖ではなく、上座に近い襖から中に入り、一礼をした。
「黒坂常陸守真琴に御座います」
と、声を出すと、織田信長に近い上座に座る少しポッチャリオジサンが、
「おぉ、これはこれは、お呼び立てして申し訳ありませんでした。徳川三河守家康に御座います。料理があまりにも美味すぎて作っている御人を上様に聞いたら、なんと言うことか、最近話題の常陸様と言うではありませんか。一度お会いしたくて」
と、にじりよってきた。
「口に合ってようございました。食べ過ぎないようにしてくださいね」
と、食べ過ぎて腹を擦っている家康に忠告してあげた。
「はははっ、腹八分目を心がけているのですが、いやはやいやはや、こんな美味いものは、初めて、この御礼と言っては何なんですがこれをお受け取りください」
と、言って、腰に差していた小太刀を俺に差し出してきた。
織田信長の顔を見ると頷いていたため受けとれと言うことなのだと思い、受け取った。
「ありがとうございます、料理の続きが有りますので失礼します」
と、退室した。
ん~俺、実はあまり徳川家康好きではないんだよね。
安土桃山時代、最強レベルの軍事大国になった日本を弱らせたのは徳川家康だと思っているから。
この男にだけは天下を取らせるわけにはいかないと思っているが、織田信長が生きているうちは大丈夫だろう。
でも、北条と組んで反旗を翻したらどうなるんだろう?と、思いながら台所に戻ると、用意した食材は全部揚げ終わって宴席に運ばれていた。
蟹~蟹~食べてないよ!
あとからゆっくり食べようと思ったのに~。
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