第60話 大津城城主・拝命
秋風が吹き始め、多くの赤とんぼが群れをなして飛び始めたころ、俺は安土城天主に呼び出された。
正門を入ると、茶々が出迎えてくれ天主最上階に案内してくれた。
すると、一杯の茶が点てられた。
薄ピンクの綺麗な茶碗、まだ14歳の茶々によく似あっている。
そこに緑色の泡がきめ細かくふっくらとしていた。
口に入れると、以前より格段に美味しくなっていた。
「あっ、美味しい」
と、口に出すと茶々は下を向いては少しにんまりしている様子だった。
練習したんだろうね。
でも、もう少し濃くても良いかな。
織田信長が入れる茶はその微妙な加減が上手いのだが、茶々はまだまだお子ちゃま。
濃いお茶を求めるのはナンセンスな気がするので、それは言わないでおこう。
茶が飲み終わると織田信長が入ってきて座った。
俺と対面するように座り、そこに蘭丸が地図を広げた。
琵琶湖沿岸を書いた地図。
滋賀県だね。
織田信長が腰の扇子を出し、地図を指示した。
「ここの、城主となれ」
「はい?」
「バカか?」
俺、織田信長に何回『バカか?』って言われているのだろう。
「同じことを何度も言わすな、ここに破却した坂本城から流用して今築いている大津城がある、そこの城主を常陸に命じる」
「城主ってのが先ずは驚いてはいるんですが、ここって、京都と安土を結ぶ要所じゃないですか?こんなすごい所を俺に?」
「一門衆ぞ、常陸は、そのような者がこの地の城主、悪くないであろう」
「信長様、俺を信用しすぎていませんか?」
「ははははははっ、誰も信用などしないわ、しかし、常陸、お主は野心がない、だからこそだ」
バレているのね。確かに未来の知識を活用して自ら日本国統一をするなど考えていない。
織田信長が死んだとしたら、その嫡男、信忠に協力するつもりだ。
「俺、統治能力とかはっきり言ってないですよ」
「わかっておる、よって与力に蒲生氏郷を就ける、城代にでも家老にでもしてやらせればよい。常陸はお飾りになるやもしれぬが城主になってもらう、これは決めたことだ」
「蒲生氏郷~~~~」
「知らぬか?なかなかの切れ者ぞ」
「知ってますよ、会津若松に東北には珍しい巨城を築いて、江戸幕府滅亡の時に朝廷軍を苦しめる名城を作るんですから、しかも、大好きな伊達政宗のライバル的存在だし」
「知っておるなら良いではないか、城はまだ完成しておらぬし、安土城内屋敷もそのまま、好きなほうに住め、こことも船でくればすぐに着くぞ、ただし、鶏をどうにかしろ」
「え?」
「苦情が多い、大津城に移せ良いな」
あ~やっぱり苦情あったのか。
そして、家臣の苦情がちゃんと織田信長の耳に入るのだから、らしいといえばらしいよな。
羽柴秀吉の夫婦けんかを仲裁したりするのだから、織田信長って実は人間味がある人物。
鶏、朝っぱらからの鳴き声、五月蠅かったかな。
なんだか、今井宗久がいろんな種類の鶏をよこすもんだから長鳴きの鶏までいるんだよ、うちの庭。
あの息継ぎ早くしなよ!ってツッコミ入れたくなる鶏。
「茶々の嫁入り先が、城なし武将とは格好もつかんからな、良いな」
「はい、わかりました、ただ二つ提案がありまして」
と、地図を指さした。
せっかく滋賀県のほぼ全体地図が、目の前にあるのだから考えていたことを言った。
「ここにも築城をしませんか?賤ケ岳です。ここに城を作って塩津街道の抑えとします。牧野にも築城して西近江街道の抑えといたします。すでにある、安土城、長浜城、大溝城と今、作っている大津城とその二つの城六つを水路で結んだ近江一帯を結んだ水の都とします」
「大溝城と長浜城と坂本城と、この安土を結んではいたがそこまで大きくするか?」
「はい、大きく水路で結んだほうが人々が集まった時に街づくりがゴジャゴジャせずに作れるかと思います、それとこの新しく作る城には、前田利家と佐々成正を入れるのが良いかと思います」
「なぜその二人なのだ?」
「俺が知っている二人は、結構ギリギリまで羽柴秀吉と戦いますから、前田利家は結果的には羽柴秀吉の重要な家臣にはなりますが」
「常陸は猿を警戒しているのか?」
「はい、秀吉と黒田官兵衛をと申したほうが良いでしょうか、二人が勢いづくのはあまり・・・」
「わかった、考えよう」
そう言って、織田信長は退室した。
茶々は地図をじっくり見ていた。
特に小谷のほうを。
生まれ故郷だもんね。
地図から顔を上げて俺を見ると、
「常陸様は、上様の軍師ですね」
と、言った。
そうか?ただ助言しているだけなのだが。
「大津の城、見に行くときは私も行きますので声をかけてくださいね」
と、言って退室した。
そりゃそうか、いくら城作りの名手、蒲生氏郷が築城奉行でも主となる俺が見に行かないわけにはいかないよな。
鶏小屋も作らないとならないし。
城持ちなら豚も飼えるよね。庭にいると情が移りそうだけど、三の丸とか普段見ないようなところになら飼えるな。
しかし、蒲生氏郷も家臣ですか?
本当に、戦国末期オールスター勢揃いの家臣団になりつつあるな。
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