第59話 童貞真琴

 俺と茶々の婚礼の日取りは、まだ決まっていない。


しかし、婚約は発表されると同時に茶々は織田信長の養女になった。


そのおかげで来客が数日続いたが、一週間もすると落ち着きを取り戻しいつもの生活にと戻っていた。


基本的には俺は屋敷の外には出ないので、他人様の態度がどう変わっているかもわかりはしない。


朝ご飯を食べ、天気のいい日は庭で家臣たちと剣術の鍛錬をし、軽い昼ご飯を食べては、のんびり過ごしている。


この時代、一日二食が一般的らしいがうちの屋敷は三食だ。


二食だとお腹が空く。


井之頭なにがしと言うおっさんのように空を見上げて、「腹がへった」と、言いたくなってしまう。


それでも昼は、かなり軽めで作り置きの餅を焼き味噌を塗って食べたり、誰かが安土の街中で仕入れてきたパンを食べたりするくらいだった。


基本的にうちの食事、夕食は肉食、鶏が多い。


鶏は、養鶏所かってくらいに庭で飼っている。


その鶏肉を食べて、鍛錬をする日々。


と、なると、自然と力丸、慶次、宗矩、幸村の体系は筋肉ムキムキになっていった。


うちの家臣、結構、強い軍になる?


普段なら、浅井三姉妹の茶々、お初、お江が遊びに来るのだが、婚礼の準備があるとかここ数日は来ていなかった。


いつものように過ごす日々はいつのまにか、夕方は秋風が涼しい季節に変わっていた。


今年の夏は人生重大な決断事があったせいか過ぎるのを早く感じた。


日が落ちるのも早くなる。


夜になれば特にすることもないので、夕食を食べて風呂に入って寝る。


それが一般的な生活だ。


いや、風呂が自宅にあるってのは、かなりぜいたくな生活らしい。


慶次は夜になると飲みに出掛けるらしく、朝帰りは当たり前だが、慶次家臣の忍び衆が夜の屋敷の警護はちゃんとしているので文句はない。


俺は、自室で布団に包まる。


スーーーーーーーー。襖の開け閉めの音が静かに聞こえた。


ん?誰か入ってきた。


緊張が走り、枕元に念のために置いてある小太刀に手を伸ばすと。


「御主人様、私です」


と、声がした。


廊下の障子から漏れる月明かりに、女性特有のボンキュッボンのシルエットを薄影色で映し出していた。


少し幻想的にも見えるが、それは着物を着ていないことがわかる影の形。


着物を着ているならそのような影にならないからだ。


「桜子、どうした?」


「恥をかかせないでください」


と、言って俺の寝ている布団に入ってきた。


えっえっえっえーーーーーーーー。


なにをどうしろというの?据えられた膳ってこういうこと?


俺、童貞なんですけど、なにこのシチュエーション。


「お情けをいただけませんか?」


落ち着け俺、今のこの状況は何なのか把握しなければ。


「夜伽はしないでいいって初めに言ったよね」


「はい、聞きました。でも、御主人様のお種が欲しくて」


すげーーーーー。


この時代の女性、「精子ください」って言うのかよ。


平成なら夫婦じゃなかったら変態さんだよ。痴女だよ。


「なんで?こうなったーーーーー」


思わず声に出してしまった。


その声にビクンっと驚きの反応をする桜子の動きを感じた。


「いや、ごめん」


と、言うと。


「私では嫌ですか?」


と、暗いながらも漏れる月明かりで、悲しげな表情をしているのがわかった。


嫌なんかではない。


むしろ、桜子は可愛い。


しかも、肉食生活&日々のこの時代の重労働の家事仕事をこなしているせいか、引き締まりながらも胸と尻は大きめで、女性特有の体つき、顔だって平たい顔の能面族より少し凹凸のある平成でも通用するかのような美少女顔。


文句のつけようがない。


俺の下半身は正直に反応しているし。


富士山ハッスル・・・・・・ごめんなさい。俺の下半身、筑波山レベルです。


「その、なんでこうしているのか訳があるでしょ?」


俺は、なんていうことを女性に聞いているのだ。


『これで好きだからです』などと答えられたら本当に申し訳ない質問をしている気がする。


「側室になれば、ずっとここに置いていただけるかなと、思いまして」


「ん?」


「ですから、茶々様が輿入れされるのですよね?そしたら私達お払い箱になるかなって」


なるほど、そういうことか。


「茶々と結婚しても君たちは、家で働いてもらうつもりだよ」


「え?本当ですか?」


「だって、あの料理を作りこなせるのは君たちだけだもん、今更ほかにわざわざ教え込むのも馬鹿らしいじゃん」


「ありがとうございます。ありがとうございます」


と、布団の端を持って顔を隠しながら泣いているのがわかった。


俺は桜子に背中を向けて、横になった。


「安心したかい?」


「はい」


「だったら、俺は今から目を閉じるから、見ていないからその間に・・・・・・」


・・・・・・その間に部屋から出て行きなっと言おうとしたところで桜子が背中にぴったりとくっついてきた。


ぬほーーーーーーーーー。


ヤバいヤバいヤバい。何この柔らかな感触。


俺の下半身、一切刺激されていないのに爆発寸前だよ。


童貞には刺激強すぎるよ。


「あの~桜子?」


「はい?」


「見ていないから、その間に部屋から出て行きない、って言おうと思ったんだけど」


「私は側室になる覚悟を持ってご寝所に入りました、恥をかかせないでください」


「そういうことは好きな人とするべきだよ、桜子」


「はい、そう思います。だからお情けをいただけませんか?」


凄い超ド級の告白やん。なにこれ。マジか~。


でも、俺は婚礼前。


このまま童貞で結婚したい。


童貞が持つ純粋な夢。


童貞と処女が結婚したい夢。


「今は抱けない」


と、答えた。


下半身は暴れん坊将軍になりたいと叫んでいるのだが。


「『今は』って事は、茶々様のお許しがあれば側室にしても、良いとのことですか?」


桜子は耳元でそういった。


ゾクゾクする。


これ以上、俺を刺激しないでくれよ。


ほとばしる青春の欲望を頑張って抑えているんだから。


心頭滅却すれば火もまた涼しい。


いやいやいやいや、いくら違うことを考えたって治まらないから。


首を激しく縦に振った。


「うん、そうだから今日は自室に戻って、ね。とにかく、この屋敷から追い出すことは絶対にないから」


と、叫んでしまった。


と、廊下の障子に人影が。


「御主人様いかがなさいました」


と、宗矩の声が聞こえた。


「何でもないよ、何でもないから大丈夫だから」


と、襖の向こうの宗矩に答えた。


まだ12歳の宗矩に今の状況は見せられない。


「わかりました」


と、ぴたっと離れる桜子。


ちょっとだけ惜しい感じもする。ちょっとだけか?


いやいやいや、すげー惜しい感じがするが我慢だ、自分。


布団から出て行く桜子。


スーーーーーーーー。


と、襖の閉める音が聞こえた。


くわ~~~~~~~~。


興奮して眠れないやんけーーーーー。


ほとばしる興奮を一人で治めて、出して、なんとか眠りについた。


翌朝、桜子は何食わぬいつもの顔で朝ごはんの支度をしていた。


この時代の女性、強すぎだろ、メンタル。






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