第57話 真田安房守昌幸と真田幸村信繁とカツカレー
外は俺への挨拶の行列が続いていた。
織田信長家臣団の妻や留守を預かる家老などが次々と押し寄せてくる中、表玄関では前田利家の妻の松様が、親戚になる誼ですと言って対応に当たってくれていた。
そんな中、俺はカレーを作り始めた。
スパイスは調合済みのを備蓄してあるので実際作るのは桜子達が出来る。
そんな中、尻を「痛い痛い」と、抑えながら乗ってきた黒豚を屋敷の裏庭で槍で一突きにしている前田慶次。
腕は確かで、豚は最後の断末魔一声だけ鳴いて極楽へと旅立つ。
今日の黒豚は、今井宗久が琉球から仕入れていたらしい。
なんか、俺が食べたいだろう、欲しいだろうと予見していたらしい。流石商売人。
いつもよりも二回りくらい大きな黒豚なのだが慶次は尻の痛みをこらえながらも一突きで絞めていた。
ブヒーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
豚、鳴き声以外全部食べるという言葉は伊達ではないな。
その断末魔は当然、外の並んでいる来客にも聞こえると、名前の記帳だけでなく直接俺に会いたいと頼んでいた客もいたらしいが、そそくさと帰っていったらしい。
慶次、これって怪我の功名ってやつだね。
黒豚は解体され、今日はとんかつとカレーを両方作ってカツカレーだ。
料理を説明すると手際よく桜子、梅子、桃子は料理を始めたので俺は台所の隅で壁にもたれかかるようにしてウトウトしていた。
「御主人様、起きてください」
と、宗矩が起こしに来た。
「ん?どうした?」
「はい、来客の中に、真田安房守殿がおいででお知らせしたほうが良いかと思いまして」
「真田昌幸?」
「はい」
「だったら、広間に御通しして」
と、言って眠気顔の俺は梅子が汲んできてくれた盥の水で顔を洗ってから大広間に入ると、草苅さん?ダンディーなオジサンと力丸と同じ年くらいの青年が頭を下げて座っていた。
上座に腰を下ろす俺、このルール?習慣も馴染んできた。
「黒坂常陸守真琴です。頭をあげてどうか楽にしてください」
と言うと、二人は頭を上げた。
「真田安房守昌幸にございます。本日は婚約のお祝いにと来た次第にございます」
と、言って青年が獣の革の束を前に差し出した。
「熊五頭、狼八頭の毛皮にございます。そして、我が息子も進呈いたしたく」
と、青年は再び頭を畳にこすれんばかりに下げていた。
「顔は上げていてください、そういうの苦手なもので、すみません」
と、顔を再び上げる青年。堺さん?
「幸村信繁と申します。何なりとお申し付けください」
戦国末期オールスター戦ルート終わっていなかったのね。
「えっと、信長様からの命ですね?」
「はい、息子を常陸様の近習として差し出せと」
「えっと、給金は?」
「なんでも、常陸様が出すわけではなく上様が出すとのことで破格の給金をいただくことになっています」
俺、今10万石どりの大名クラスなんだけど、これ自分だけで使えるのってすごいよね。
恩賞とか考えなくて済むのは助かる。
「なら、よろしくお願いします。仕事は力丸に聞いてください。森力丸が一応、俺の家臣の長になっていますので」
「おや、慶次殿ではないのですか?」
そりゃそうだ。
力丸はまだ16歳、慶次は40過ぎのおっさんだもん。
「えぇ、上様の側近でもありますから」
と、なんとかごまかしてみた。
単純にこの屋敷では力丸しか知らない秘密があるあらこそ、力丸が一番なのだから。
「今、昼飯を作っている最中、もうすぐできますから一緒にどうですか?」
と、昌幸を誘うと断るにも屋敷中に広がるスパイスの香りが気になるらしく。
「御相伴にあずかります」
と、言った。
すぐに膳の上にカツカレーが九谷焼の平たい皿に盛られて出てきた。
豚汁付きカツカレー定食。
銀の匙、スプーンは大量購入してあり、朱塗りの一人用膳に置かれている。
見たこともない外見に戸惑っている様子の二人、俺が先に食べてみせると、腹をくくったのか一口運んだ。
「ん、美味い、これは薬膳料理ですか?いろいろな薬草が煮込んでありますね」
「はい、そのようなものです。このご飯にかかっている汁はカレーと言う異国の薬膳料理で、そのわきに小麦色のサクサクした食感の物は豚肉を油で揚げた物にございます」
「いやはやいやはや、これは生の着く食べ物、この昌幸、寿命が10年延び申した」
と、昌幸と幸村は満足げに食べていた。
口に合ってよかった。
って、真田幸村信繁も仲間に加わった。
絶対、宝の持ち腐れになるよ、これ。
松様も別室でみんなとカツカレーを食べたらしく、
「このような御馳走を食べさせていただけるならいつでも呼んでください」
と言って帰っていったらしい。
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