第53話 茶々と茶

 あくる日の朝、力丸に織田信長との面会の時間があるか確認してもらうよう頼む。


本丸天主に行って兄の蘭丸に会って帰ってくると、時間は作るとのことで昼前に登城の許可が出た。


いくら、客分であり茶々と婚約が決まっている微妙すぎる立ち位置の俺でも突然登城するのは失礼になるくらいのことはわかっている。


徳川幕府では約束のない登城はご法度で、御三家の水戸徳川斉昭ですら押し掛け登城を理由に蟄居が申し付けられている。


朝ごはんを食べ頃合いを見計らって力丸を連れて天主に登城すると茶々が正門で待っていた。


「常陸様、今日から天主でのあなた様のお相手と申しますか、案内役は私にさせるよう伯父上様からの命にございます」


と、少しもじもじしながら言っていた。


「あ、はい、よろしくお願いします」


「えぇ、末永く」


そのよろしくお願いしますじゃないよ、今のは。


力丸が何やら笑いをこらえている様子だった。


「今日は天主の間で拝謁するそうです」


と、安土城の天主の最上階に登った。


外を眺めると過ぎた春のやわらかな日差しより夏に近づく強い日差しが、琵琶湖の湖面をキラキラと映し出していた。


美しい眺め、良いよな。


城に住むなら川か湖が望めるところが理想だ。


って、二の丸とは言え安土城内の屋敷暮らしなのだから城と言えば城か。


海は、城下町が危険になるからやだな。


一人で絶景を楽しんでいると、茶々がお茶を運んできた。


茶々が建てたお茶らしく、座って一口口に運んだ。


ん~、薄い、飲みやすいけど、抹茶の良さが表現しきれていない味。


クリーミーさも足りない。


織田信長が入れる濃いが甘みのありクリーミーな泡の美味いお茶とは一線を画すお茶。


だが、不味いなどとは言わない。


流石にそこまで失礼ではない。


無言で飲み干し茶碗を置いた。


「美味しくありませんでしたか?」


「え?」


「伯父上様から聞いています、伯父上様が入れたお茶をなんの結託もない顔で「美味いって喜んで飲んでいたわ、ハハハハハっ、可愛いやつじゃ」っと」


そんなこと、あの織田信長が言うんだね。


「不味くはないですよ、飲みやすいお茶だとは思いますが」


「でも、美味しくはない?」


「うっ、うん、はい・・・・・・」


その普段は何食わぬ顔しているのにいざって時に鋭い目つきになるのははっきり言って怖い。


でも、その表情嫌いではない。


「精進します」


そう言って少しふくれっ面になりながら、少し離れたところに座る茶々。


ん?話、一緒に聞くの?良いの?織田信長が来たら退室するのかな?と、しばらくして織田信長が入ってきて座った。


「今日は何だ?常陸」


「その前に御人払いを」


と、茶々のほうを見た。


「茶々には言ってある。常陸がこの時代の者でない事を、未来の者であることをだからこそ、このわしが客分と言うふざけた身分の者に大名と呼べるだけの褒美を与えて囲っていることを」


「では、未来の話をしますがよろしいので?」


「夫婦になる者、隠し事は窮屈になるのではないか?」


織田信長の気遣いなのかな?


「茶々、わかっているな、ここでの話は他言無用、話せば話が広がれば、常陸をどうにかして我が物にしようとするもの、抹殺しようとするものが出てくる、そうなってはこの織田家に対して、いや、この国の損失なのじゃ、だからと言って嫁にまで黙っていたら常陸が重圧で心を病むかもしれぬ、だからこそ、茶々が相談役になってほしいのじゃ」


「はい、にわかには信じられない話でしたが、あの伯父上様が戦働きをしない者を10万石で雇っているとなれば信じるしかないと思います」


そりゃ~屋敷に籠って怪しい料理を作っているだけだもん、いくら本能寺から救った命の恩人でも、10万石にさらには「正四位下参議常陸守」と言う、かなり上の官位官職は過ぎたる褒美だもんね。


「実際、信忠率いる毛利攻めの軍は、常陸の考案した新式火縄銃のおかげで破竹の勢いぞ、このままなら年内には戦は終わる」


って、始まったばかりのはずではと首をひねったが、飛距離、貫通力が格段に上がった流線形の弾と、接近戦用散弾銃を効果的に使って進軍しているらしい。


まさに幕末の戦いのようだ。


幕府軍が旧式の銃に対して、薩長側は新式の銃と大砲で戦ったのだから。


毛利が滅びるとなれば長州もなしルートになるな。


織田信長嫡男、織田信忠も歴史時代劇番組ではさほど取り上げられることはないが、実は父親の才能を引き継いだ人物、新しい武器を使いこなしているのだと想像できた。






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