第51話 信長とカレーライス

 カレーライスを初めて作ってから三日で織田信長から呼び出された。


予想は出来ていたのでカレーを鍋に作って本丸天主に登城した。


通されるはいつもの茶室。


いや、俺が料理をだすための部屋になった茶室。


火鉢で鍋のカレーを温めてご飯を蘭丸に頼むと、お櫃に入ったご飯が届けられた。


しばらく、鍋のカレーをかき混ぜながら織田信長を待つと、お市様も同伴で茶室に入ってきた。


「変わった匂いがするな」


「はい、異国の料理をベースとした薬膳料理に近い物でカレーと言います。俺の時代では好きな人は毎日食べていましたよ」


と、皿に盛り付けて二人に出した。


少し食べるのを戸惑っている様子なので俺が毒味のごとく食べて見せると二人は食べた。


「ん?なんだこれは?飯に合うな、美味い」


「本当に美味しいですわ」


「食欲増進や免疫の活性化される体に良い食べ物なんですよ、野菜も肉も両方食べられるし」


と、説明する間に二人は食べ終えていた。


皿を畳の上に置く。


ってか、正座してカレーライスを食べるってのはシュールだよね。


膳をこの部屋に用意して貰おう。


「で、答えは決まったか?」


いきなり本題突入。


前置きなしってのが織田信長らしい。


答えは実は出している。


決めてある。


俺は今、必要とされているこの時代に、この時代で生きるための覚悟を決めていた。


「茶々を嫁にいただきます」


「そうか、茶々を選んだか」


と、懐紙で口を拭きながら言う織田信長。


「お初もいかがですか?」


「ゴフッ」


思わず吹いてしまった。


お市様はなんて事を言うんだ?


姉と妹を娶ったら姉妹丼か?


「そんなとんでもないです」


と、右手を顔の前で思いっきり振ってそれは否定した。


「あの、ただし、一つ良いですか?」


「なんだ?」


「俺の時代では結婚出切る年齢は女は16才からなんです。茶々はまだ14才。あと二年は待っていただけませんか?」


「常陸、郷に入っては郷に従えと言う言葉は知らぬか?常陸の時代がどうかは知らぬがこの時代なぞ子のうちに婚儀を進めるのは当たり前」


と、織田信長が言った。


確かに、同じ日本でも時代が違えば仕来たりや風習が違うのは当たり前。


少し黙ってしまった俺を見るお市様。


「なら、仮祝言で婚約でよろしくては?」


「まどろっこしい」


織田信長はそう言う。


「それなら、はい、と返事は出来ますが」


と、俺が言うと。


「ふん、そうか、ならそれで良かろう、お市あとは任せた」


「はい、兄上様」


織田信長は自分の用が済むと茶室から出ていった。


「常陸様、茶々は兄上様の養女にしたうえで嫁がせますがそれも承知ですか?」


「はい」


「と、なると常陸様、あなたはあの織田信長の義理とは言え息子になります。それがどう言った意味を持つかわかりますか?」


「わかりません。しかし、嫁には茶々が良いと思いました。男勝りなところが好きです」


「そうですか、なら良いでしょう、しかし、待ち受ける重みは覚悟をしなさい」


「茶々なら一緒に戦えるかな?とは、思いましたが」


「なかなかみる目はあるのですね」


はっきりと言って歴史が好きな俺には茶々、お初、お江がどれだけ活躍しているか知っているが、実際に接して茶々は魅力的な女性である。


だからこそ、決めた。


これが中途半端に買ったりした娘ならこんな重大な決断はしない。


帰ることを諦めるのだから。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る