第41話 味噌カツ

 とんかつも唐揚げ同様、安土城内で話題になった。


誰が言いふらしているのかすぐに織田信長の耳に入り献上することとなった。


織田信長に「とんかつ」と言うとやはり濃い味付けのソースは必定、一考して出た答えは味噌カツ。


織田信長=愛知=名古屋飯=味噌カツ。


勝手な解釈で名古屋の人に怒られそうな気もするが。


ザ・名古屋飯・味噌カツ。


安土で流通していた赤みそをアルコールを飛ばした酒でこねまくって、ドロドロに溶かしてさらに高級品だけど流通している砂糖を投入。


味見をしてみるとなかなかしょっぱい味噌だれが出来上がった。


そこに、炒り胡麻を混ぜて、たれに香ばしさを追加した。


俺は正直、味噌カツは苦手なのだが食べさせる相手の好みに合わせるのが料理の基本、織田信長を想像して作り上げる。


これがきっと愛情のこもった料理というのだろう。


とんかつは今回は揚げやすいのと食べやすいように一口串カツとして桜子達に準備をさせた。


万が一毒などということがないように調理中は俺か力丸が見張ってはいたが大丈夫のようだ。


下準備が整った一口串カツと壺に入れた味噌だれを持って本丸の天主に登城するとまたしても茶室に通された。


茶室で揚げ物って良いのかね?


茶釜には水ではなく菜種油が入っており、炭火に乗せられるよう準備がしてあった。


油を温めようとしたところで織田信長が入ってきた。


「はじめよ」


と、だけ言って俺の手元を凝視していた。


絶対に平成では博物館にあったと思う鉄の茶釜を炭火に乗せ油を温める。


衣を一つかみ入れるとシュワシュワと泡が出たので一口串カツを二本投入した。


五分ほどで肉汁と油の反応して広がる香ばしい食欲をそそる香りが茶室に広がる。


泡が静かになったところで引き揚げて、皿に乗せて出した。


「こちらを漬けてお召し上がりください」


と、二合入るくらいの木の升に入れた味噌だれと一緒に差し出した。


一口串カツを一本その升のたれに着けて口に入れる。


「おふおふおふ、熱い、ぬぬぬ、この閉じ込められた肉汁が口の中で広がる、脂が美味いな、サクサクした食感にまとわりついたこの味噌を改良した、たれが良く合う、美味いぞ、常陸」


そう言って二串目を手にするのを見て俺は追加の一口串カツを揚げる。


二皿目には橙(だいだい)のしぼり汁と塩を合わせた塩だれを勧めてみた。


二皿目の一串をその塩だれで食する織田信長だったが、どうも違うらしく二串目はやはり味噌だれで食べていた。


五皿目を食べたところで満足したようで「十分だ」と言った織田信長の顔は少しテカっていた。


アブラギッシュ織田信長。


「常陸、未来の食べ物はなかなか美味だな、次も出来たら馳走してくれよ」


と、上機嫌。


「おっ、そうだ、常陸の料理を田舎者に食べさせて度肝を抜いてくれようではないか、饗応役になれ」


と、おもむろに言った言葉に少し引いた。


饗応役の明智光秀を咎める織田信長のイメージが強すぎるからだ。


「唐揚げや、この串カツなどの料理は勿論致しますが、饗応役と言う役目はお許しください」


怒るかとびくびくしながら言うと、


「そうか、饗応役は荷が重いか?」


と、わかってくれたようだった。


「誰がおいでなんですか?」


「越後の上杉景勝、山形の最上義光、米沢の伊達輝宗が参る。わしの臣下になるとの使者が来たので安土への登城を命じたのだ」


やはり、左大臣・右近衛大将の官位官職、そして、敵対勢力への勅命による討伐の効力は他の勢力にも影響が強かったようだ。


「常陸、料理は任せたぞ、本日は大儀であった」


そう言って、茶室を出ていく。


この茶室、油臭くなってきたから揚げ物専用にしたほうが良いのではないだろうか。


越後の上杉景勝、山形の最上義光、米沢の伊達輝宗への接待の料理か、少し考えるか。


・・・・・・信長の料理人に近づいてしまった気がするぞ、なんか、ヤバい。


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