第35話 ジャンクフード

 俺は無性にある物が食べたい。


マヨネーズではない。


マヨネーズを今、語ったら、赤鬼と青鬼の双子の鬼の界隈の信者に怒られそうな気がする。


俺が食べたいのは唐揚げ、フライドチキンでもいい。


白い顎鬚の紳士が作ったフライドチキンなどとは贅沢は言わない。


シンプルで良い、唐揚げを食べたい。


安土桃山時代に来て半年、これほど唐揚げを食べてないのは俺の人生で最長だ。

最長記録更新中だよ。


コンビニ行ったら毎回レジの脇の串に刺してあるやつ、紙パックに入ってるやつ買っていた俺なのに。


もう食べたくて、食べたくて、どうしようもない。


禁断症状が出て鳥肌になりそう。


「よし、作ろう」


そう思い、下働きをしている住み込みの桜子に遣いを頼んだ。


鶏、ニンニク、ショウガ、胡椒、酒、油。


この中で一番高いのは何でしょうか?


知らなかった。


平成では100均ですら大瓶すら存在するのに胡椒、それくらいの量で恐ろしい値段がするとは。


リバーシーの売り上げの半分くらい使ったらしい。


家建てられるとか、どんだけ高い調味料なんだよ。


今井宗久、口利きで手に入れてきたらしく芸術品と言えるようなビードロの瓶に入っていた。


と、鶏は?


・・・・・・庭に二羽の鶏が歩いていた。


生きているのね。


これ俺さばくの?


と、思っていると、梅子が捕まえて、薪を割る台の上で勢いよく振り上げた出刃包丁で鶏の首を斬った。


家の食卓に出てきた鳥って毎回そうしていたの?


逆さにして血抜きをしたあと毛をむしり出す。


唐揚げ作るのやめたくなってしまったが、とにもかくにも唐揚げが食べたい。


ここは欲求に忠実に生きようと、心に決め見ないことにした。


しばらくすると庭を歩いていた二羽の鶏は肉の塊となってた台所に持ってこられた。


「さて、これをいかがしますか?」


と、桜子、梅子、桃子が指示を待っていた。


あくまでも俺には作業を、調理をさせないらしい。


それは家で働く下働きの者としてのプライドなのだろうか?


「じゃ~とりあえず鶏肉はぶつ切りで良いかな」


と、言うと手早く解体が始まる。


桃子には別の指示を与えた。


「酒に塩と摺り下ろしたニンニク、ショウガ、胡椒、を入れて適当に混ぜて」


と、漬けダレを作ってもらう。


醤油がまだないらしいので今日は塩唐揚げでいこう。


ぶつ切りになった鶏肉にその合わさったタレに入れてもらい、軽くコネコネと練ってもらい、しばらく漬け込むことにした。


約4時間漬け込んだのちに、そこに石臼で粉にしてもらった小麦粉を投入、さらにサクサク感が欲しいので、片栗粉も投入してもらった。


だんだん形になる唐揚げ。


最後は揚げの行程だ。


竈で揚げ物とは難しそうで火鉢に並々に菜種油が注がれた鍋をセットしてもらい、そこで揚げる。


油が程よい温度になったか衣をつけた箸を入れてもらうとプクプクと泡が出てきた。


「じゃ~、その肉を少しづつ投入して」


と、言うと五切れほど投入される。


ジュワ~~~~~と、油の泡が立ち上がると、香ばしく良い匂いが広がる。


これだよこれ、この匂いだよ。


よだれが口の中に溢れ出す。


鶏肉は少しずつ狐色にこんがりと化粧されていく。


美味そう。


泡が静かになったころ合いに出してもらった。


味見と称して一つ皿に乗っけてもらう。


我慢できない。


勢いよくかぶりつく。


「あち~~~ほふほふほふほふ」


美味い。そりゃ~平成の唐揚げのようにまではいかないけど、美味い。


間違いなく唐揚げと呼んでいいレベルの物が完成した。


熱々をむしゃぶりつく俺を見つめる、桜子、梅子、桃子にも食べるように命じると、揚げたてを少し口に運んだ。


「旦那様、大変美味にございます」


「旦那様、これはなんですか?」


「旦那様、このカリカリした食感が美味しいです」


と、喜ぶ三人。


残りの鶏肉も全部揚げてもらった。


四人で全部食べつくす。


「ふぅ~美味かった、これは唐揚げって食べ物なんだよ」


と、教えた。


「唐揚げ、至極の一品にございました」


そう言う、桜子、梅子、桃子の唇は油でテカテカしておりグロスを塗ったかのようで美味しそうだった。


この日から唐揚げは度々作られるようになる。


ただ、胡椒は家の家計をひっ迫させそうということなので、山椒に変えてみたが、それはそれでさっぱりとしたピリリ感があり美味かった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る