第32話 甲冑
冬の風が吹き始めた頃、屋敷に客が訪ねてきた。
「堺の商人、今井宗久と申します」
と、門で声が聞こえた。
小姓の宗矩が出迎え大広間に案内させた。
正座で頭を下げていた、初老の人物。
俺はいつものように上座に座って挨拶をした。
「黒坂常陸介真琴に御座います。本日はなにようでございますか?」
この住んでいる屋敷は本丸からは離れたとはいえ安土城内、三ノ丸と言った所だろう、なので、許可された者しか入れない。
平成の訪問販売とは訳が違う。
「上様からの命でして、甲冑の採寸に来たしだいに御座います」
「甲冑?」
「はい、上等の物を準備せよとの命でして」
ん?俺、戦場に連れていかれるの確定的?
意味のない事はしないはずの織田信長。
戦場に連れて行くつもりなんだね。
「失礼して、採寸を」
と、今井宗久が言うため立ち上がると今井宗久が連れてきていた付き人?が、計り始めた。
頭周り・背丈・胴廻り・手足の長さ等々。
「作る甲冑ですが、胴と兜は南蛮物を使いますが何か希望はありますか?」
採寸に来た人物は甲冑師との事で希望を聞いてきた。
「手足が動きやすくて、剣の動きに邪魔にならないようにしていただければ、あと、軽めで」
「はい、わかりました。防御力より機動性を重視で御座いますね。あと、装飾に希望があれば」
どうせ買うことが決まっているのだから、希望はちゃんと伝えなければ。
「前立てに『鹿島大明神』と、書いていただいて貰ってよろしいですか?」
「はい、もちろんにございます、家紋の装飾は致しますか?」
家紋か、だったら先祖代々の家紋を胴に書いてもらうか。
「『抱きおもだか』を胴に装飾してください」
「かしこまりました。甲冑の他に、常陸様、所望の品があれば届けよとの命ですが何か御座いますか?」
戦場に出されるなら、連れていかれるなら移動手段の馬が必要。
それと長物の武器と替えの太刀。
長物の武器と言えば槍だが俺は薙刀のが得意だ。
なので薙刀を頼んだ。
「馬と薙刀と太刀をお願いできますか?」
「かしこまりました、馬と薙刀は適当に良いものを届けさせますが、太刀は希望の銘があれば」
強剣が欲しい。
「胴田貫をお願いできますか?」
「大丈夫で御座います。すぐに手配いたします」
そう言って今井宗久は帰っていった。
すぐに戦いに行かないとならないのかな?
必要とするからこその甲冑なんだろうけど。
あ?金は?お金は誰が出すの?と、心配になったが、織田信長が出してくれるらしい。
良かった。
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