第30話 前田又左衛門利家と前田慶次利益

「たのも~誰かおらぬか?」


と、お江達と庭で遊んでいると声が聞こえた。


あれ?お江達の御側衆いたのによく入れるな?と、疑問に感じた。


緊張が走った。


茶々が相変わらず屋敷の縁側で何も言わずに座っていたが、その声で直ぐに俺の置いてある刀を渡してきた。


力丸も廊下の梁に掛けてある槍を手に取った。


お初はお江の手を取り物陰に隠れた。


「能登守前田又左衛門利家にございます、はいります」


との声でみんなは肩の力が抜けた。


前田又左衛門利家の顔を知らぬ織田家の者はいないわけで、フリーパスで門を通されたみたいだ。


お江達の御側衆が力丸に駆け寄ってくる。


「常陸様、前田又左衛門利家様に間違いないとの事、こちらに案内しますか?」


と、力丸が聞いてきたので、


「いや、それって失礼になるのかな?広間にお通しして」


と、屋敷の広い部屋に案内してもらった。


俺も直ぐに広間に入ると40歳ぐらいの二人の男性が胡座で頭を下げていた。


えっと、俺は上座に座るべきなのか?と、迷うと力丸が手のひらで合図をしてくれた。


どうやら上座に座るらしい。


この上座、下座って難しいしきたりだよね。


「面を上げて楽にいたしてください」


と、俺が上座に座って言うと二人は顔を上げた。


「前田又左衛門利家に御座います、こちらに連れてきたのは慶次利益に御座います」


40前後の凛々しい男二人。


意外かも知れないが利家と利益は実はほとんど同じ年代。


叔父甥より兄弟にも見えてしまうくらいの年の差。


一説には利益のが歳上だって説があるくらいだ。


「お~スゲースゲースゲー~」


と、思わず俺が喜びの声をあげると力丸が咳払いをして止めた。


「失礼しました」


「ハハハハハッ、おもしろいお方だ」


と、唐沢さん、あ、いや、失礼しました。


利家さんが笑っていた。


「あ、と、失礼しました。黒坂常陸介真琴と申します」


「はい、上様からの命で来ましたので知っております」


そりゃそうだ。


「失礼します」


そう言って襖が開くと、お茶が運ばれてきた。


ん?なんで茶々が運んでくる?


「え!茶々様、何をなされております?え?」


戸惑っている、利家さん。


うん、俺も困惑。


桜子あたりが持ってくると思っていたが。


襖の影には、お江とお初がぴょこぴょこ顔を覗かしている。


入ったら?って声をかけようとしたら、


「常陸様のお世話をしておりますから」


と、清ました顔で言う茶々。


なんか、爆弾発言では?


「え?そうなの?知らなかった~」


もう、口に出さずにはいられなかったよ。

驚きで。


「ほほほ~。なるほど、なるほど」


ん?利家さんには何かわかるの?


「いや、お邪魔をしては悪いので用件だけを、この利益、お召しにより本日より黒坂常陸介真琴様の与力になりますので、させますのでよろしくお願い致します」


「へ?」


「いや、上様からの命でして、腕だけはたちますからこきつかってやってください」


「前田慶次利益、以後よろしゅうお願い致します」


と、言う利益。

うん、ミッチーって言うよりモコミッチーじゃん、背高い。


「えっと、よろしくお願いいたします。その仕事はたいしてないので屋敷の警護をお願いいたします。見てのとおりお市様の娘三人が出入りしてますから」


「わかりました、私の配下の忍びも配置させていただきます」


ん?忍び?


母親、忍び説あったけど、慶次が忍びの頭?


あれ、すげ~宝の持ち腐れになりそう。


でも、猿楽が得意だったって言うから身のこなしは軽いのかな?


「あの、給金とかって?」


「上様から直接受けておりますので気になさらずに」


お金の計算をしなくて済むのは助かる。


お金の計算・・・


利家さんの顔を見て笑いそうになる。


槍の又左と言われるけど、算盤の又左とは言われないんだなっと。


晩年は槍より算盤を持つのが多い利家って本当の文武両道?


あれ?あのとき希望した人みんな来るのかな?


戦国末期オールスター戦になりそう。


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