第10話 勧誘

「首を押さえてどうした?」


織田信長が少し不思議がっていた。


素直に言おう。


殺されたくない。


斬られたくない。


死にたくはない。


「俺が知っている織田信長は、人を殺します。斬ります。家臣でも坊主でも」


扇いでいた扇子をパチン、と、閉じた。


その音に背筋がゾクゾクとした。


ヒヤヒヤすると言うのがあっているのだろうか。


いつ織田信長は、腰の小太刀を抜くのかと。


「確かに斬っておる。しかし、私利私欲では斬ってはおらぬ」


「俺は死にたくない、斬られたくない」


「斬らぬ、貴様はこのわしを助けた恩人じゃ、その様な者を斬るほどの不義理はせぬ」


確かに織田信長は、裏切り者を斬るが自分から裏切った話はあまり聞かないと言うのか知らない。


反旗を翻した室町幕府最後の将軍足利義昭ですら降伏した者は斬っていない。


一向一揆は別だがあれはあれで評価が実は出来る行為。


俺は政教分離の日本を作ったのは織田信長ではないかと評価しているからだ。


俺も謀反さえ起こさなければ斬られないのか?


「信用出来ぬか?」


「鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス、と言われるほどの伝承が伝わっているので」


「なんだそれは?」


「はい、戦国時代を終らせた三人、織田信長、羽柴秀吉、徳川家康の人となりを表す表現で、

織田信長が『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』

羽柴秀吉が『鳴かぬなら 鳴かしてみせよ ホトトギス』

徳川家康が『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』

などと言われてまして」


再び、扇子を広げ扇ぎ出しながら笑う織田信長。


「ハハハハハッ、風情がないの」


三人の中で一番芸術感が有るのは織田信長に思える。


だったら、鳴くまで待つのでは?と思えるが、これは単に気性を表した後世に作られた詩、あてには出来ないだろう。


「家臣は嫌か?」


嫌と言って今すぐ斬られるのか?


いや、斬らぬ、と、言っているのだから斬らないのだろうが、家臣が嫌か?と、聞かれると嫌なわけではない。


これぞ微妙と言うのだろう。


家臣、一城の主、領地持ち。


ただそれは、重圧、重荷。


いきなり一流企業の取締役になれと言われているのに等しい。


しかも、織田信長軍会社と言えば絶対実力至上主義評価のブラック企業。


なら、バイトならどうだ?バイトのほうが気が楽なはず。


と、なると、この時代のバイトに値する物はなんだ?役は?

食客?一応は働くのだからそれは違うのか?


出た答えは『客分』。


「客分として、同盟者もしくは協力者、助言者と言うことなら引き受けましょう」


「客分?同盟者?協力者?助言者?家臣になれば城も領地も与えると言っているのに良いのか?」


「はい、家臣には、はっきり言ってなりたくはありません。重荷過ぎます。織田信長が嫌いだからではない、むしろ好きな武将ですが、織田軍団の実力至上主義会社の重役になんかにはなりたくはない」


説明が下手なのはわかっている、でも、包み隠さず言うのが織田信長を相手にしては正解なのではと思った。


誠心誠意なのではと思った。


「よくはわからんが、貴様は命の恩人、わしの傍に仕えるならそれで良かろう」


一応の納得はしてもらえたみたいだが、口約束では今後のためにならない、書類に残してもらおう。


確か、この時代は約束事は神文血判だが織田信長って書くのか?


豊臣秀吉なら秀頼に忠誠を誓うよう家臣に書かせたと有名だけどどうなんだろう?


神をも恐れぬ織田信長って言われるけど実は熱田神宮を整備したり寺社も建立してるんだよね、しかも、神主の家系らしいって聞いたことあるしどうなんだろう。




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