第9話 知恵

「わしが欲する物は貴様の知っているからこそ出てくる妄想力だ」


耳を疑った。


未来の技術や知恵ならわかるが、妄想力とは。


妄想力に、それほどの価値があるのか?一国一城。


「妄想力?未来の技術や知恵ではなく?」


「ふっ!」


っと、また鼻で笑われた気がした。


「未来の技術や知恵が今の技術で実現出来ると思っているのか?その板だってそうだ、作れん。もちろん、知っていることは教えてもらうが、知っているからかそでてくる発想力、妄想力が欲しいのだ、知っているからこそ出てくる発想、妄想は未来の技術を知らぬわしらより遥かに上」


そう、スマートフォン、電話の類いを知っていたって俺にだって作ることは不可能。


平成の世の大半の人間は同じなはずだ。


オーバーテクノロジーは、かけ離れすぎていれば現実不可能な絵空事。


宇宙に飛び立つ為にはロケットが必要で、重力より強い推進力を出さなければならないと知っていても、実現できる技術がなければ夢物語。


ジュール・ベルヌのSF小説になってしまう。


「あ、確かに」


そう、いくら俺が知っていてもそれを現実に作れるだけの絡繰りを作れる物ではない。


「貴様はわしの傍に仕えて気になることがあれば助言を言う、思い付いたことを言う、どうだ、さほど難しい仕事ではないはずだ」


織田信長の傍に仕えて・・・・・・

凄く嫌な予感がした。


思わず、


「ひーっ!」


と、豚の鳴き声のごとく声をだし、尻の穴を押さえてしまった。


「バカか?」


また言われた。


「わしにも好みはある」


良かった~俺は男色のカテゴリーには入らないのだな。


織田信長の側近って言ったら、小姓?精鋭部隊の赤母衣衆?黄母衣衆?


戦にも出て人を殺さないとならない?


家臣?織田信長の命令は絶対?


それがどれほど重要な事なのかわからない。


平成の世だって日本は会社に忠誠を誓うのは否定されてきた。


そんな世で育った俺でさえ主従になる、いくら城持ちであろうとふたつ返事で『はい』とは言えない。


そう簡単に答えを出せない。


だからと言って断れば、路頭に迷うのは必定、城の外は間違いなく今まで生きてきた常識では生きてはいけない。


平成に帰りたいと願っても、とにもかくにも生き抜かねばならない。


だとすると、誰かの保護下に入っていなければ。


それがたまたまあの織田信長と言うことなのか?


俺はそもそも織田信長は嫌いではない。


会えてこうして話していると言う現実は感慨無量、率直に嬉しいが、家臣になれと言われると話は別。


好きだからこそ、伝承で残っている気の短さに、残虐さ、家臣・・・

斬られかねない。


腕を組考えていると、


「そう言えば貴様はわしを知っているのか?」


と、織田信長が言ってきた。


「はい、日本人のほとんどが知っている有名人。ドラマや映画は当たり前、教科書だって載っていて習います」


ドラマや映画って通じるのか?


「どらま、えいが?習う?」


そりゃ通じないよな。


「物語を役者が演じてそれを鑑賞する物です。それと、習うは、学校と呼ばれる勉強を学ぶ場で日本の歴史として教えられます」


「わしが後の世に伝わっているのか?」


「はい、信長公記が元になっている内容だったはずです。あっ!信長公記って確か豊臣秀吉が誰かに作らせた伝記だったかな」


「豊臣秀吉?誰じゃ?」


「羽柴筑前守秀吉です。本能寺の変のあと、明智光秀を倒して実権を掌握して関白になって、日本を統一します」


「秀吉がか?」


「はい、そのあと、徳川家康が征夷大将軍になって江戸に幕府を開いて260年ほど徳川家が日本の政治を実効支配します」


「ハハハハハッ、その話を聞けただけでも価値があるの~、さぁ~どうだ家臣にならんか?」


織田信長は意外にも人の話を聞くのが好きな人物。


伝承では、宗派の違う僧侶を二人問答させ聞き入ったらしい。


が、問答に負けたほうは・・・首を斬られたと伝わる。


家臣になれば俺も首が?っと青ざめながら両手で首を押さえた。





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