第6話 タイムパラドックス
「見させてもらった」
そう言って、中に入っていた旅行情報雑誌『ららぶ』を取り出す信長。
修学旅行の下調べに買った京都旅行情報雑誌。
ガッツリと読み込み付箋まで貼っておいた旅行情報雑誌。
「これは、未来の書物であろう?」
そう言って突き出してきた。
「見たこともない紙、景色をそのまま切り取ったかのような絵、いくつか見覚えのある寺社、景色、巻末の2016年と書かれている事から、この時代の物ではないのか?と、思ったがどうだ」
鋭い、隠し立てはしないほうが身のため。
短気と名高い織田信長、殺される覚悟で嘘をつくのはヤバイと感じた。
「はい」
「神隠しにでもあってここに現れたか?」
神隠し?金隠し?角隠し?
「わからないとしか言いようがないのですが」
「まぁ~良い、で、わしはあそこで死んでいたのか?」
スッゴい直球で球投げますね、直球過ぎて受け取ろうか迷いますよ。
でも、受け取らなかったら次はバット振りそうですよね。
バッターから奪い取って。
「はい、のちの世に本能寺の変と言われる明智光秀の謀反で織田信長様は死んでいます」
「そうか、そう書いてあったな。この石碑の本能寺跡と書かれたところで、それを貴様が助けてくれたわけだな?」
俺が気を失っている間に読み込んだのね。
「はい、そうなってしまいました」
「ハハハハハッ、比叡山を焼き討ちするような者に天は助けを使わせたか、ハハハハハッ」
笑い事ではないよ。
あれ?タイムパラドックス発生する?
俺、消える?
あれ?旅行情報雑誌の内容は変わらないの?
「なんだ、急に青ざめて」
「あのですね、歴史を俺が変えちゃったわけなんですよ、そしたら必然的に俺、生まれない可能性があるから消えるのかなって」
「わからん」
「すみません、紙と鉛筆を下さい」
「えんぴつ?書くものか?蘭丸、筆と硯じゃ」
小さな机と紙と筆と硯を持ってくる蘭丸。
この硯、スゲー彫刻、これ絶対重要文化財とかになるよ。
馴れない筆で一本の線を書いた。
一本の線にバツ印を着けて分岐線を書いた。
「この線が俺の知っている時代の線とします、時の流れ、川の流れとでも言いますか」
チラリと手を止め織田信長の顔を見ると真剣に俺が書いている線を見ていた。
「よい、続けよ」
理解出来るのか不安だけど続けるしかない。
「このバツ印を本能寺の変とします、で、織田信長が生きている線、あ、すみません、呼び捨てなんかして、本当にごめんなさい、殺さないで」
「あ~良い良いから話を続けよ」
背中がびっしょびっしょだよ。
「はい、で、この分岐したこの線の未来は俺がいた未来とは別の線になります。と、なると出会うはずの者が出会わず出会わないはずの者が出会う、となれば俺の両親、祖父母もまた出会わなく俺が生まれない、わかります?」
言っている自分ですら解らなくなってくるんだよな、タイムパラドックスって。
卵が先か?親鳥が先か?っと一緒な気もするけど。
「なら、貴様だけがこの線からこっちに移ったのではないのか?
太流の川の流れから小魚一匹が、飛びはね隣の川に移った」
そう言って線に小さな丸を書き矢印を書く織田信長。
ん?タイムパラドックス俺より理解している?
もともと、タイムパラドックスは仮説であって証明は困難。
ならば複数の時間線が存在する説でも良いのかも知れない。
そして、俺はたまたま移った。
と、なれば太流の川の流れに小魚が一匹迷い混むのも必然。
帰れるのかな?
「面白き者が迷いこんだ物だな、ハハハハハッ、荷物は返す」
そう言って、俺のリュックサックは手元に戻った。
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