第2話 本能寺の変
なんだ、この燃えたぎるお寺は?焦げ臭い、熱い、本当に燃えているのか?いや、そんなはずはない、これはきっと間違った出口を開けてしまったんだ、撮影?アトラクション?映画村?そこに広がる世界は国営放送ドラマや映画で幾度となく見てきた光景によく似ている。
「ぬはははははは、この信長、光秀ほどの者に殺されるなら良かろう、天から与えられし寿命はこれまでか、是非に及ばず」
白い寝間着と言うのか浴衣と言うのか着物を着た長い髪をポニーテールのように縛り上げながらも髭を生やした、ダンディーなおじさんが博物館で見るような黒光りした弓を手に笑っている。
あまりにも現実離れした光景に俺は今開けた襖を閉めようと慌てるが、全く動かない、腰が抜けて力が入らないとかではない、力はしっかりと入っているはずなのに、閉まらない、俺が悪戦苦闘している中、
「信長、覚悟ー!撃て撃て撃てー!」
バンバンバンバンバンバンバン
白い着物を着たダンディーなおじさんめがけて、火縄銃が火を噴くがおじさんは怯む事をせず、一人一人と弓矢で壁によじ登り火縄銃で狙っている敵兵を撃ち落としていた。
「おい、貴様何者?珍妙ななりをしてどこから出てきた?」
珍妙ななりか?
うちの高校は普通の詰め襟の学ラン、オーソドックスな制服だぞ?
ん?あっ、そういう設定だから俺は珍妙なのか?
自分が置かれた状況がいまいちよくつかめないが、自分に都合の良いように俺の脳内は変換されていく。
そうこれはきっと何かのアトラクション、今流行りの体験型アトラクションなんだ。
そう思うことが適当だと思った。
お金払わないで入ってきてしまった、兎に角謝ろう。
「ごめんなさい。ごめんなさい。今すぐ出ていきますから」
怖い恐い怖い。
桔梗の家紋の前立ての着いた立派な具足のおじさんの目線が一番怖い。
ん?あの人?
「おい、貴様、どこから出てきた?あの扉は、もしもの時にと作り始めていた南蛮寺に続く脱出通路、まだどこにもつながっていないはずだが」
奮闘している寝巻のおじさんが、眼前の敵より俺のほうが気になるらしい。
「いやいや、お寺の通路から歩いていたら真っ暗闇で何が何だかわからなくて、ここに出てしまって今すぐ出ていきますから、戻りますから」
急いでこの場から離れよう、映画の撮影だろうとドラマだろうとアトラクションだろうと、今は俺はこの場所にいてはおかしいはずだ。
映画やドラマだったらこれだけの火事のシーンだ撮り直し出来ないはず。
「ふっ、南蛮の宣教師みたいななりをしおって、ん?さては貴様がわしを地獄へと導く死神か?」
うわーなんだよ、俺、この撮影だかアトラクションに巻き込まれたのか?話続けるにはいくら何でも無理があるだろ。
て、気になるんだよな気になる。
あの桔梗の具足の人の影が気になる。
もうどうでも良い、これだけは言わねば。
「そこの人、狐憑いているよね?」
「はぁあ?何を言う、わけのわからぬ者よ、貴様も信長ともども殺してくれる、撃てー撃てー」
バンバンバンバンバン
うわっ、火縄銃トリック?仕込み?すげーって床板ぶち抜いた。なんだなんだ、これ実弾?はっ?トリック?仕掛け?爆薬?えっ?
もうわけわかんねぇぇぇぇぇぇ!
ちきしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
小梅太夫なみに叫んじまうよ。
しかし、見えた物は滅しなければ、撮影の邪魔だって言われようと仕方がない。
見えてしまった狐・・・・・・妖は滅するのが家の決まり、役目、代々受け継いできた家の仕事、滅しなければ人に災いをもたらす。
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