第1話 修学旅行

俺は高校二年の12月、紅葉の季節が過ぎ寒々とした冬の始まりに極々普通の公立高校らしく定番の京都へ修学旅行に来ている。


なぜに冬なのかと言うと、秋はトップシーズンで観光客が世界中から訪れホテルの確保も難しくなったからだ。


『オーバーツーリズム』

外国人観光客に手厚く、日本国民には来るな!と言っているかのような流行言葉。


まさに京都はその象徴。


地方の学生が古都・京都に来る機会は修学旅行。


だが、オーバーツーリズムのおかげでホテルの値段は倍増。


修学旅行の予算オーバー。


その為、観光客が落ち着く12月。


紅葉は散っていてわびさびの文化半減期。


中学校三年生の修学旅行も京都であった。

同じ場所に二年ぶりだがそれでもやはり修学旅行となるとテンションは自然と高くなる。


茨城県の公立高校も飛行機の使用が解禁されて数年、沖縄や北海道などに行く学校が多い中、うちの学校は生徒のアンケートで京都を中心とした関西修学旅行に決まった。


家族旅行も良いが友人との遠出には、はしゃぎたくなる。


学校生活も地元の高校のおかげで腐れ縁の古い友達が多く不満はない。


そんな修学旅行の二日目のグループ行動で訪れた寺が創建700年の記念イベントとして、秘仏・大観音菩薩像が特別公開になっていた。


次はいつ公開されるかわからない秘仏だったので予定にはなかったが急遽、並んででも見ようという事になった。


俺達男女混合8人はその列に並んでいる。


「ラッキーじゃん!」


小学校から一緒の貴志は、はしゃいでいた。

俺よりもテンションは高い。


「400年ぶりの一般公開らしいからパワーも蓄積?」


「はははっ、なんのパワーだよ?」


本当にパワー蓄積していたらこの400年、外から拝んできた人には御利益は?っと疑問符が出てくる。


「400年の眠りから覚めし力、世界を混沌の闇へと帰してくれる」


智也、『厨二病』早く完治すると良いな。


「おいおい、それって大観音菩薩様に失礼だっぺよ」


国光、茨城弁を少しは隠す努力しようよ。

流石に少し恥ずかしいぞ。


「んだな~、400年って言ったらやっぱり戦国時代末期だよな~」


貴志、お前もだ。


「豊臣秀吉が羨ましいよな~」


「何でだよ?智也」


「真琴、だって豊臣秀吉と言えば日本史史上最強ハーレムキャラだろ」


「そうか?江戸時代の大奥はカウントしないのか?」


まあいろいろ制度が厳しかったらしいから自由にヤリたい放題なのは確かに豊臣秀吉さんだろうが・・・・・・。


「本当、男子って馬鹿よね~」


隣の一軒家に住む絵に書いたような、お手本の設定の幼馴染み萌香がさげすむように俺たちを見ていた。


「うるせ~男子ならみんなハーレムに憧れるもんだよな!なっ!真琴」


「まぁ~って、ごほんっ、俺にそんな話しをふるなよ」


「うわ~真琴君もハーレム欲しいんだぁ~」


違うんだよ佳代ちゃん違うんだよ。


「こいつの持ってるライトノベルは異世界ハーレム物ばっかりだぞ、しかも巨乳ロリヒロインばかり出てくるイラストがどエロいやつ」


貴志、それは内緒のはずだっただろうに、内緒だから貸してやったのに裏切り者と言うのか口が軽いと言うのか困ったやつだ。


まぁ、そんな事を暴露されてもさしあたって問題はないが、ないが、人の性癖を大声で言うのはやめてくれっ、と、列が動き出したか。


「こちらの中は大変暗くなっています。大観音菩薩像を紫外線の劣化から守るため、また、大変神聖な場所であるためライトは最小限しかありません。 一人一人壁を伝いましてゆっくりとお進み下さい。本堂の地下をお進み頂くと当寺の御本尊大観音菩薩様がおられます。私語を慎みまして心静かに合掌して下さい。 きっと皆様の願いをお聞き届けくださいます。 ただし、青少年の皆様、流石にハーレムをお願いはお慎みいただいた方がよろしいかと思います」


お堂の入り口で若いお坊さんが、にこやかな笑顔で案内している。

俺たちの会話を聞いていたな?


並んでいる参拝者がクスクスと笑っていた。


だが、それを気にしない俺たちのグループ。


「合唱だってよ!何歌う?カエルの歌か?」


「馬鹿、違う合掌、手を合わせ祈る事だよ」


「ジョーダンジョーダン、マイケルジョーダン」


「ほら、貴志ふざけんなよ」


俺達の順番か、ふざけた話をしていた友達も流石に場の空気を読んで口を閉ざしお堂の中に足を踏み入れていた。


中は先に入った人達の息の音と、木板の廊下を踏みしめる足音だけが静かに聞こえる真っ暗闇。


夜よりも暗いお堂の中では自分の手先すら見える事は出来なかった。


入り口のお坊さんが言っていたように壁に手を付け、ゆっくりゆっくりと一歩一歩と前に進む。


目は暗闇には慣れるものだが、本当に明かりのない所では慣れるもなにも見えないと言う真実に少し驚きを隠せなかった。


家の自分の部屋の夜でも電気を消しても必ずなにかしらのランプは着いている。


テレビの主電源やスマホの充電中を知らせるランプ、エアコンや空気清浄機のランプ、暗いながらもその明かりは部屋の場所を認識させるには十分な役割を果たしていると感じてしまう。


前には貴志、後ろには萌香がいたはずだ。


気のせいかもしれないが萌香が俺の制服を掴んでいるかいないかわからない強さで摘まんでいる。


それがこの暗闇で俺は一人ではないんだって思わせて少しの安心となっていたが、ゆっくりゆっくりゆっくり足を進めるとその引っ張る感触がいつの間にか感じられなくなっていた。


ん?何かおかしい、暗闇で時間も距離も感じられない空間であってもこれだけ進めば御堂の下を軽く一周するはずだ。

何キロもあるはずがない。

暗闇が距離感、時間の過ぎる速さを麻痺させている?


それにしてはあまりにもおかしすぎる。


そのくらい足は前に出しているはず。

おかしさに気が付くと、さっきまで聞こえてた先をいく貴志の息づかいに足音も聞こえない。


流石に不安になり声を出してしまう。


小さく。


「な、貴志いるよな?」


ん?返事がない、なんだよ、こういう場でもお前は声を出してしまうタイプのはずだろ?


もう少し大きな声で、


「おい、貴志?萌香?」


先ほどより大きめに声を出す、絶対に聞こえているはずなのに答えが返ってこない。


気がつかない所で俺ははぐれてしまったのか?


一本道ではないのか?


まさか迷路?


大観音菩薩像はまだなのか?


おかしい、おかしい、おかしい、だからと言って足を止めるわけには行かない進まなければ出れないはず、とにかく進もう。


ん?なんだ居るんじゃないか?声が聞こえるぞ、俺はその声に安堵のため息が漏れ出た。


「ふぅ~・・・・・・ん?」


「オヤカタサマ~」


ん?誰を呼んでいるんだ?親方様?大工の棟梁か?まぁ誰か居るならとりあえず良いか。


壁に伝いながら声が聞こえるほうに足を進めると、一筋の赤い光が小さく見えていた。


出口近いのか?やっと出口か?その小さな光には襖のような引き戸が照らされていた。


これを開ければ良いのか?やっと出口だな?よし開けよう。


「ぬはははははは、この信長、光秀ほどの者に殺されるなら良かろう、是非に及ばず」







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