⒌急変

 風邪菌と出会って六日目の朝が来た。日曜日なので、今日も学校は休みである。

 俺は、隣の風邪菌がまだ眠っているのを確認すると、スマートフォンのトークアプリを起動した。

 そして、新着メッセージが入っていないか確かめる。

 実は昨日、俺はあることが気になって、風邪菌が動画を見ている隙に、翔太にメッセージを送っていたのだ。

 返事は、昨日のうちに届いていたらしい。

「その子、消えるんちゃう?」

 俺が送ったメッセージに、翔太は短く、そう答えていた。

 ことの発端は昨日だ。

 風邪菌の姿が、時折ノイズが入ったかのように、ぶれて見えたのである。

 最初は一日中週漫画を読んでて疲れてんのかな、と大して気にしてなかったが、それが一日のうちに何度も起こっり、さすがに無視しきれなくなってきた。

 目をこすれば、何もなかったかのようにいつも通りにもどる。

 心配になって、風邪菌に直接訊ねてみるも、特に変わったことはないですよ、の一点張りだった。

 それでもやっぱり気になって、翔太に、ことの次第を洗いざらい説明したのである。

 その数十行に渡る俺の長文メッセージに対する返答が、

「その子、消えるんちゃう?」

 であった。

 しばらくして、風邪菌がうん、と伸びをしながら目覚める。

 そしてその姿を見て、思わず絶句した。

 身体が、透けていたのである。

 顔はいつも通りなので、布団に入っている間は気づかなかったが、脚やわき腹など、所々が透けている。場所によっては、向こう側が見えるほどだった。

「なあ、お前、消えたりしないよな」

 目に見えてるものが信じたくなくて、そう問う俺に、風邪菌は笑いながら言った。

「あは、ばれちゃいました? そうですよ。私は風邪菌。誰かに感染しない限り、長期間の行動は不可能です。この勝負、私が負ければ、私はそのまま消滅します」

 

 

 

 考えろ考えろ考えろ。

 必死でない頭をひねって、風邪菌が消滅しない方法を考える。

 一番簡単なのは、俺が感染することだ。けれど、それでは俺が死んでしまうので、これは最終手段にしておきたい。

 となると、誰かに感染してもらうというのも考えられるが……。

「いや、その誰かが死ぬんじゃダメだろ」

 風邪菌と自分を助けるために、誰かを犠牲にするというのも嫌だった。

 そんなことをするくらいなら、まだ自分がかかった方がましだ。それに、他の誰かと風邪菌がキスをする場面を想像すると、なんとなくもやもやしてしまう自分がいる。

 自分自身が透けているにもかかわらず、風邪菌はあまりにものんきだった。

 いつものように俺に話しかけ、今日は家族が出かけているからと、一階のリビングでテレビが見たいとせがむ。

 そんな風邪菌に連れられるがまま、俺はテレビの前のソファで、必死に思考を巡らせていた。

 待てよ、風邪菌が消えないためには誰かが感染することが必要。

 感染すると死んでしまう、というのが一番のネックなんだから、感染しても死にさえしなければ、解決するんじゃないか。

 よし、これなら。

 ようやっと妙案と思える案が浮かんだ俺は、早速翔太に、とあるメッセージを送った。

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