あの日のオレンジは苦い香りがした。
ゆう
あの日のオレンジは…
君からはいつも、オレンジの匂いがした。
爽やかで快晴を連想させるようなそんな匂い。
あの日、線香に紛れた微かなオレンジの匂いに耐えられなかった。
そして君にさよならも出来ずにその場を去った。
騒がしい教室の喧騒の中で一際響く声が1つ。
あぁ、オレンジの匂いがする。
また君かい?出来ればほっておいて欲しいんだけどね
「また睡眠かい?君は」
「そういう君も授業中寝てたでしょ?」
その言葉に反論出来ず苦し紛れに
「君につられた、しくじったね」
「つられた、つい、同じ、そういう言葉が僕は嫌いなのを知ってて君はわざと使ってるのかい?そうだったらこれからは付き合い方を考えるけど」
「すまない、これしか言い方がなくてね」
そういう事なら仕方がないのかな。
さぁ、もう少し眠りますか。
「もしかして、授業に終わった事に気付いていないのかい?」
そう言われて周りを見てみる。
おっと、誰も居ないようだね。
全く気付かなかったよ。
「ところで待っててくれたのかい?」
「そうとも、感謝したまえ」
そう言いあい君とオレンジ色へと変わりつつある教室から出た。
あぁ、無言が心地よい。
この無言が続けばいいのに。
でもそうはいかない。
君とこの無言の時を過ごせるのも後1年あるかどうかだ。
なぜなら君の余命は1年と医者に告げられているからだ。
あの日、君が僕の目の前で倒れた日に君が居ない所で僕は主任医師から聞いたんだ。
君はALS…筋萎縮性側索硬化症つまり、だんだんと筋力が衰えて最終的には呼吸すら出来なくなる病気だ。
そしてその病気は……現在の医療技術では治療不可能。
まさに、不治の病。
なんで、なんで君がそんなものに倒れなきゃいけないのか。
そして何も出来ない無力な僕がどんだけ悔しかったか。
そして君は僕にその事をまだ伝えていないね。
ねぇ、そんなに僕って頼りないかな?
弱みを僕には見せることができないくらい僕は君に信頼されてないのかな?
「では、私はここで」
ああ、もうお別れか。
「うん。また明日」
この言葉があと何回言えるのだろうか。
そんな事は、今は考えたくない。
明日会えることを信じて帰ろう。
そして数歩歩いた時
ドサッ
何かが崩れ落ちるような音が後から聞こえた。
なんで君はそこで倒れているの?
早く救急車を呼ばないと。
さっきまで笑ってたでしょ?
救急車の番号は119。
なんで辛いって言わなかったの?
繋がった。状況を説明しないと。
どうして?
どうして?
どうして?
どうして?
頭の中がぐちゃぐちゃになり、周りの音も色も入ってこなくなり、気がついたら僕は手術室のまえのベンチで座っていた。
そして手術中のランプが…消えた。
そして手術室から出てきた医者に僕は聞く。
「あの人は、あの人は大丈夫なんですか?」
「今のところは落ち着いている。意識も時期に戻るだろう。しかし思ったよりも進行が速い。速すぎた。あと、1ヶ月生きれればいい方だね。」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
そして、目が覚めたら家のベッドで寝ていた。
どうやって帰ったんだろうか。
それよりも病院にいかなくちゃ。
そう思い僕は自転車で走り出した。
幸い病院までは近く、15分程バスに乗れば距離だ。
そして病院に着き、なるべく急いで君の病室に向かう。
病室に入ったらベッドの上で体を起こしている君がいた。
「心配かけて済まない。」
「ほんとだよ。」
「…私の事を聞いたか?」
「…どうして何もそうだんしてくれなかったんだい?」
「…いつから知ってたんだい?」
「一年前、君が倒れた日」
「もう私には少ししか時間は残されていないらしい。」
「知ってるよ」
「私が今から言う言葉を真剣に聞いてはくれないか?」
「別に大丈夫だよ。」
「私が辛い時もそばに居てくれてありがとう。そしていつも、笑顔で居てくれてありがとう。私は君の事が大好きだ。」
待ってくれ。
この言葉だけは言わせてくれ。
最後の無茶だ。
僕の体、動け。
「僕は、君と出会えて…本当に…よか…った。」
「どうした?」
「僕は…ほんと…うに…君が大好き…でした…」
「おい、別れの言葉はまだ早いぞ?」
「愛しています。」
ありがとう、僕の体。
言いたい事は言えたよ。
だから、お疲れ様。
その瞬間僕の世界が終わった。
私は目の前で君が崩れていくことを見るしかできなかった。
なぜ君が倒れているかすらわからなかった。
君は僕に何を隠していたんだ?
君はそのまま集中治療室に運ばれていった。
そして担当医に何があったのか聞くと、
「あの子はね、ガンだったんだ。
それもステージ4の末期のね」
「待ってください。そんなの激痛で動くことすらできないって言うじゃないですか。」
「あの子は自分に無茶をいって君と一緒に痛いって言ったんだ。もちろん止めたさ。だけど聞く耳すら持たなかった。せめてもの救いとして彼にはとても強い鎮痛剤を渡していた。」
彼は自分にこんなに大きな嘘をついていたのか?
起きたら文句を必ず言ってやる。
だから、死ぬな。生きろ。
そして君が目覚める事はなかった。
葬式には参加したいと医者に車椅子を押してもらい行くように頼んだ。
反対されたが押し切って行くことを決めた。
彼の葬儀では、オレンジの香りが微かにした。
そういえば彼はオレンジの香りが好きだから私もオレンジの香水を着けるようになったんだっけ。
オレンジの香りは彼が居た時を思い出させる。
とても、痛い。
胸が、張り裂けそうだ。
君を見る事が出来ないなんて信じない。
彼の遺体なんかあるわけない。
だから、そっちに行かないで。
お願い。
お願いだから…
「かえ…りましょ…」
「なんですか?」
「お願いだから、帰らせてください。」
弱い私にほんとに虫唾が走る。
認めたくない。
その一心で私はそこから逃げ出した。
この事がバレたらあの世で君に怒られるかな?
今からそっちにいくよ。
そう思い私は彼の葬儀の1週間後、病院で息を引き取った。
君とあの世で会えることを祈りながら…。
あの日のオレンジは苦い香りがした。 ゆう @horizach1223
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