ボーダーラインその1:後編

 亜季と崇(彼女は始末書を一緒に書いているうちに彼のタカシという字をこう書くと知った)は、今とあるアパートの一室に入るドアの前にいる。

 というのも、パーマストン・パークで捕まえた男の証言タレコミで、この部屋がアジトの1つであるとされたからだ。

コン、コン

「えー、ニューラグーン警察のものですが、開けていただけませんか?」

「なにやってるんだ、おまえ」

「いやあ、まずはノックして挨拶が礼儀だと思いましてな」

と、銃声とともに、ドアの上部分が破裂する。

「バカ、相手は口より先に手が出る連中だぞ!」

「ええ、そんなあ」

 崇は、そんなコントじみたやり取りをしながら、ドアに空いた穴に数発、撃ち込んだ。

「よし、突貫つっこめ!」

 そのまま、部屋に亜季と崇は入った。

 相手は、ドアのある方向にむけて、ひたすら乱射する。

「いいなあ、こっちは経費かかるから、あんな無駄撃ちできねえよ」

「そんなこといいから、反撃するであります!」

 亜季がそう叫ぶのに対して、崇は狙い済ました一発を放つ。弾は銃を乱射していたらしい影の脳天にあたり、影はそのまま崩れ落ちた。

 ……しばらくして、部屋を調査していた亜季は、あるものを発見した。

「タカシさん、これ、やつらがターゲットにしてた人たちであります。

読む限りでは、自分たちの標的と、金のための標的が分けてありますね」

「ふうん、どれ」

と、しばらくそのリストを読んでいた崇は、ある名前に気づいた。

「おい、これの写し、ロムさんところにやらないといけないな」


「ほら、そんなんじゃ相手に打ち返されるぞ!」

「はい!」

 バドミントン部のコーチの怒声と、それに応じる選手を見ながら、ロムはそのコーチに向かって手を振る。

「やあ、ロムさんでしたっけ、どうかしました?」

「実は、エイシャちゃんについて、あることがわかったんですよ、ハシグチさん」

と、ロムはハシグチというコーチに、話はじめた。

「ある暗殺者というか、名前的には殺し屋の方がしっくりくるヤツがいましてね。そいつがリスト魔でして、ターゲットのリストを作成してたのです。その中にエイシャちゃんの名前がありましてね、そして」

と、ロムはハシグチを指差して、続ける。

「あなたの名前もね」

「なんの、言いがかりかね」

「言いがかり!

そうであれば良かったのですが、しかし、たかだかバドミントン部で、誰が主力であるかどうかってだけで、殺しを依頼するとはね」

「たかが?」

と、ハシグチは怒気いかりを露にしながら、反論した。

「ロムさん、あなたにはわかるまいが、よりによって猫に、このバドミントン部を託さなければならない私の気持ちがわかるか?」

「わかりませんな、私がわかるのは、ハシグチさん、あなたが人殺しだということだけです」

というと、ロムはハシグチの手首に手錠をかけた。


「捜査一課といっても、犯罪捜査するのは一課だけなんだぜ」

 崇が訳知り顔で、そう亜季に講釈せつめいしている。

「二課が対諜で、三課が内部監査」

「へえ、そうなんでありますか」

「そんで、一課の中でも、一係は個人が犯す犯罪、二係は組織犯罪と、でもまあ人手不足になるから、ここで三係の出番となる訳だ。三係はいわゆる遊撃隊で、とにかく一係や二係の手の回らないところを全部やる訳だ」

「はあ、だから係長とわたしたち二人くらいしかいない訳なんですね」

「ああ、十人くらいいるはずなんだけど、後はロムさんくらいかな。まああの人はしょっちゅう問題起こすし、古株だから係長の身近にいて色々やってる感じだね」

と、ちょうど通りかかったロムが、崇の後頭部をパシンと叩いた。

「いてっ」

「うるせえぞ、人の噂話するなら、聞こえないとこかでやれ」

「はあい」

 亜季は、二人のやり取りに苦笑しながら、こう聞く。

「ロムさん、どうしました?

係長に呼ばれてたみたいですけど」

「ああ」

と、ロムはこう返す。

「また、パーマストン・パークに行けってさ」

「へぇ、そうなんですか。いってらっしゃい」

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