ボーダーラインその1:前編

 ニューラグーン州は一応帝国領であるのだが、実際のところは他の共和国、皇国という三大国家が自分に近い部分を自治領と称して領有権を主張したり、特権自治区と呼ばれるものが、学園都市と避暑地のふたつあったりで、複雑怪奇な地域である。

 それゆえにニューラグーン警察は本来帝国の司法組織なはずなのに、連合警察の支庁が、代わりのようにニューラグーンの治安維持にあたっているのであった。


「……ガイシャの名前は、エイシャという猫らしいな、この学生手帳を見る限り」

 髪が左目を隠してる風の、いわゆる『鬼太郎カット』の男が話している。

「で、この学生手帳を読む限り、彼女は戸沢高校一年生で、バドミントン部所属っと。

あそこのバドミントン部は確か強かったな。

状況としては、ゴルゴばりに、遠方から眉間を撃たれている。

弾の軌道を推測するに、半径100メートル以内のどこからかの、狙撃だろう」

「おーい」

と、白衣をきた眼鏡少女が彼を呼んだ。

「うん、どうした?」

「なんか、ずっと独り言言ってるから、現地の警官がビビってたゾ。

『あの人、にゃんにゃんですか?』とか言ってた」

「そうか」

 男が興味なさそうに返す。

「まあ、

「なんか怖いこと言ってる……」

「ところで、ここには検死する人間しかいないわけだが、捜査するやつはどこいった?」

「ああ、ロムさんならこれ以外に用事やぼようがあるみたいで……」




「はあ、そういうことだったのですか」

と、驚嘆する声をあげる教員に、さして面白くもなく、耳つき(普通の耳の他に、猫耳がついている人間と猫のハーフのこと)の捜査官が言う。

「ええ、そういうことです。

私の説明ではわかりづらいかもしれませんが、その……」

「帝国大学理学部教授にして、帝国物理学のもっとも偉大な人物に与えられる賞を独占し、あまつさえ……」

「それ以上は結構。

つまり、その教授が密室状況から脱出できた理由については、お伝えしましたよ」

 教員は、捜査官に向かって、頭を下げる。

「ありがとうございます。

ヒィの伝言を届けてくださって」

「もう、こういうことはやりたくありませんな」

 捜査官はウンザリした様子で、そうつぶやく。

「それで、本題ですが」

「ああ、はい、戸沢高校と、それを経営する学園の捜査協力要請ですね、わかりました、協力させていただきます。

それで、お名前は」

「ヒエロニムスと言います。

知り合い連中からはロムと呼ばれてますがね」




「ああ、ロムさんようやくきた。

ホント、あそこでタバコ吸ってるやつの独り言、どうにかしてくださいよ」

 白衣の少女が、そうグチる。

「やだよ、めんどくさい。

それで、なんだっけ?

ガイシャの名前」

「エイシャちゃん」

「そうそう、その娘がプロに殺されるような娘じゃなかったと。

少なくとも、入ってたバドミントン部の部員や、クラスメート、教員の証言だとそうなるな」

と、ロムが言うと、地元の警官が、補足するように言う。

「気が強いけどお人好しで、部活では期待の新人ニューカマーだそうですにゃ」

「ようは、殺されるほどの恨みを持たれるような娘じゃなかった、ということか」

 あるいは、とロムは思った。

(それが、それこそが、かもしれないな)

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