第7話迎えるための事前準備
暗い図書館の中。彼はこの世界の調査。いや、探し人を探していた。
ーー陣之内 優多そう名乗っていた彼は間違えなく今回で能力を持った……
多分、行き場を失って無限の下に引き取られ、無限との距離が近くなる。無限を殺すのならば、それがチャンスだろう。
だから事前に優多と仲良くなっておく必要があったのに……くそっ、一歩手前でやられた。
白く光る銀髪を揺らし、彼は周りを見渡して、遅かったことを悟る。
開智 無限を殺し、香花界の主権を奪う今回の計画……誰かに勘付かれていたのか?しばらく多世界の関与が手薄となり、警備も薄くなったこの世界であれば気づかれないと思っていたが、裏目に出たか……
それに自分の他にもはっきりとこの先が分かる能力保持者がいるのだろうか?
彼は、転がった椅子を立てて、座る。
仮に、もし自分と似たような類の……この先を知る能力と似た類の、またはそれ以上の能力が存在したら、また、無限と関わっているのなら、この無限殺害計画は失敗する。
だが、どんな能力にも回避法や弱点は存在するのだ。自分の能力の場合、無の状態で接されればこっちの能力は通用しない。だから、もし無を操る能力保持者がいるんだとしたらこちらは能力を活かせない、
でも、それらの例外が集まる世界が香花界だ。考えた方がいいかもしれないな。
「さて、片付けて帰るか」
右手を軽く上げると、まるで本が自らの意思を持ったように動きだし本棚へ、収納される。
あっという間に片付いて、彼はその場を去った。
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「どうだ?無限、別館の建て直しは」
「ああ、もうすぐで終わるよ」
別館を纏った淡い光は無限の手のひらの光とともに消えていく……
「終わったのか?」
「うん、お疲れ様でした」
「……で」
「ん?」
「無限、どんな奴が来るんだ?」
「えーっとね……陣之内 優多って人。まあもう人間っていう表記でいいのか疑わしいけどね」
「超人って事か」
「その通り!」
と、無限は大きな声で叫んだ。
うるさそうに、彼は耳を塞いで詳細の情報提供を求め、素直に無限は応じる。
「年齢は14歳、能力は、重力を操る能力。まだ本人は能力の使い方を知らないから、後親に複雑な感情を持ってるからちょっとした事で折れる可能性があるから」
「凄いのが来るんだな」
「まあ、しょうがないよまだ心がしっかりしてないんだから……」
「ふーん」
「昔のカイトみたいじゃないか、昔はよく僕に反抗してたもんね」
その言葉に彼は怒ったようで口調を強めて脅迫する。
「思い出させるな、流石に今は屋敷を壊したりしない。それともやるか?ここじゃまた壊れる可能性もあるし……」
無限はその脅迫を笑って楽しそうに返す。
「別にいいけど、流石に僕の流れを操る能力にかなうものはいないと思うよ。力の差でも君が僕に勝ることはないと思うよ?」
笑って無限は嘲笑するのに対しカイトの目は獲物を狙うような目つきであった。
その目つきに無限は
「分かった分かった。一応僕は平和主義者なんだけどね。嫌なんだよね〜カイトが、本気を超えたら世界が、いくつか消えちゃうんだもん」
「よっしゃ」
カイトのその答えは、殺る気満々であった。
「じゃあ、僕の存在を消さない程度に頼むよ〜」
「ああ、だったらそっちも能力は禁止だ。絶対に流れを変えて都合良く無限の方が勝っちゃうだろうし」
「オッケー、なら素手になるね久しぶりに使うから老いてないか心配だけど……まあいいか、じゃあ始め」
そう、無限が言うと同時に指を鳴らし、辺りが一変する。
短い丈の草が地平まで360度広がる草原に景色が変わり、カイトは無限がまとめて瞬間移動してきたことに気づく。
「ーー先手必勝」
無限はそう静かに小さく呟くと、身体を屈め、地を強く蹴り、気づけば自分の目の前で浮いていた。
無限が殴るその瞬間まで自分は何が起こったのかさっぱり分からなかった。理解が追いつかなかったと言うことだろう。
ーーしくじった
一瞬の出来事である。
衝撃が、肩を守る為に添えた手に走るまで、効果を無くそうと能力を発揮することはできなかった。
ーーでも、耐える。
パンチが強いのかそれともそこまでの破壊力が生まれた時から備わっているのか。
反射神経がギリギリ働いてくれたおかげで、無怪我で済んだ。
「おっと、そこで安心してたら実戦で」
わざとふわっと話す無限。途端に殴った方の手で勢いつけて飛んだーー
『バギル=アスラ』
そして、くるくると回りながら、無限は、短い詠唱、バギル=アスラ。神落魔法。神属系魔法、幻想魔法の混合種魔法を繰り出した。
「死ぬよ」
香花界の一番北にある草原で、光の柱が打たれるとともに草原の大部分がクレーターのようにえぐられた……
カイトは地べたに大の字に仰向けになって息を荒くして焦った顔からわ安堵した顔になって、自分の付近を宙に浮きながら、回っている無限に
「無限、さっきの勝負で神人類であったお前からあんな高濃度な神光をずらしてくれたのはありがたく思う。だが、俺は悪魔だ。いくらなんでも死ぬ」
「ごめんね〜いや、なんかあまりにも長引いたらなんか嫌だからやっちゃったんだ〜」
「軽!?え!なんで?俺、生死に関わるんだよ?今でもちょっと目が痛いのに……」
「え?本当に?大丈夫?」
「まあ、大丈夫だ、寝てれば治る」
「なんだ〜なら良かった。今度から模擬戦に使わないようにしないとね」
「いや、使うな。あんなの浴びて平気でいられるのは神同等か、それ以上の存在ぐらいだ」
そう、元気良く突っ込むカイトに無限は満足げに笑って、
「まあ久しぶりに動けて楽しかった〜」
「うーん、でも結果オーライ。その事には同意」
と、一瞬呆れた表情になるが、ため息をついて微笑んで無限の言った事と同意を表明する。
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ーー香花館、執務室
無限はその重厚感のある大きな椅子に座り、資料や本が高く積まれ、沢山の小物が置かれた大きな机に向かって、紙にペンを走らせていた。
「……で、話は新人さんのになるけど」
「ああ、優多の事ね」
「もう、そんな親しく呼んだんのかよ」
そう話を持ちかけてきたのは、執務室の真ん中に置かれている来客用のテーブルとそれを囲うように配置されたソファ。
その一つに寝っ転がってもともと並べてあったクッションでお手玉のようにして遊ぶ無限だった。
それにしても、無限の軽さといったら主と呼んでいいのか困る。
対応が軽すぎるのだ。謝るにしろ、感謝するにしろ全て軽い。
「陣乃内 優多って好戦的なのか?」
無限は手を止め、ペン尻を口に当て考える仕草をする。
「うーん、それはないかもね。ただ平和を望んでるのかもしれないし、だけどもやっぱり心の底では戦いが好きだったりするんじゃないかな?男の子だし」
そう笑ってまた、紙にペンを走らせて始めた。
「っていうか何書いてんだ?各庁への手紙?ならパソコン使えばいいじゃん」
「うん?いや、パソコンってなんだか面倒くさいんだもん、ローマ字入力だっけ?あんなの覚えられないよ」
「覚えるのが一番難しい、アラム式古文字のほか、各世界の言語や文字を全部覚えたのになんで、ローマ字だか分からないんだよ」
「キーの配置が複雑すぎて打てないんだよ。でも、フリック入力は簡単だよね〜。まあ、一番はやっぱ手書きの方が好きだからかな」
「ふーん」
「よっし、できた」
そう、言いながら無限は思いっきり立ち上がると、
ガタンっと音を立てて机が、思いっきり揺れる。
そして、机の上に置いてあるインクが傾き……
「……あ」
「ん?」
今描いたものがインクで黒く染まってしまった。
「インクがああああああああ!」
「いや、その万能チート能力でどうにかなるだろ」
「あ、そうか!インクが紙に染みる流れを巻き戻して、インクボトルに入った状態に元どおりにする!」
そう、咄嗟に無限は自身の能力を発動させる。
すると、傾いたインクボトルが向き直り、インクで真っ黒に染まった紙がだんだんと元どおりの書き物に戻っていく……
そして、書き物が元どおりになった頃にはインクボトルの中にはインクが元に戻っているのを確認して、無限はホッと一安心。
「良かった……書き直さなくて済んだ」
「やっぱ万能だなその能力」
「ん?万能じゃないよ。こんな楽に、能力に拒まないのは、物だからであって実際人に使おうとしても回避される可能性が十分にあるからね」
「そうだな、そう考えるとどんな能力でも万能じゃなくなるのか」
「いや、でも僕が知ってる中で一人だけいるよ。回避方法がない能力保持者」
「いるんだ、そんな人」
「まあ、人ではないけどね」
カイトは、クッションを抱えながら、無限の方へ歩く。
「そろそろ仕事に戻る」
「うん……で、そのクッションはどうするつもりなの?」
「このクッション触り心地がいいから今日一日中貸してくれ」
「……分かった」
そう言ってクッションを抱えたカイトは、執務室の出入り口へ向かう
カイトが完全に姿を消したところで、無限は引き出しから、ファイルを取り出した。
ーー調査書、地球。
そう題に書いてある通り、地球ーー青樹の境界についての調査書で、起源から現在までの歴史や文化などの発展、発達が書かれてある。
やっぱ人、中でも地球の人って不思議だな……こっちの視線から見れば作り作られの関係。まあ、非力だからだろう。
求める力が、想う力が、創る力を生むのだろうか?
魔法や、能力、超科学なんてものを知ってる身からしたら煩わしくて仕方ない。
ーーでも、だから興味深いのだ。沢山の感情とぶつかり合いながら成功と、挫折。はっきりと二つに別れる姿を見るのは面白い。
いや、二つではない。それだと人間以下の動物だ。例外というものが多大に存在する中で二つ、三つ、四つ、それ以上と結果が別れる。
ーーああ、考察するだけでも面白い。
だからだろう。やはり僕ら神の類には劣らない魅力があるんだな……
「ーー楽しみだ」
もちろん、能力を持った人間ーーいや、超人。と合うのがだ。
温かく迎えてあげよう、多分悲しいだろう。そんな複雑な感情も僕には理解できる。
だから、新しく家族として、『香花ファミリー』として迎え入れよう……
無限は顔に笑みを浮かべて、手を握る。
そして、思ったらもう速攻、行動に移すしかない!
まずは、カイトに優多を迎え入れるための香花ファミリー計画を話そう、そして次はメイドやお手伝いサンタ達にも協力を願おう!
「というわけで来ちゃいました!」
「じゃあ、そんなわけで帰ってください」
と、カイトらしく、会話をしようとしてくれない。手で「あっち行け」と、振ってくる。
無限は、カイトのいる大きな門へ、走って来た。
カイトは、塀を背もたれにし腰と背中辺りに先ほど貸したクッションを間に入れてくつろいでいた。
「そんな冷たいこと言わないでよ……せめて話だけでも」
「えーーーーーー」
唐突に嫌な顔をされた。
「なあ、俺の槍の修理まだなのか?」
「槍?」
「並式三刃槍 変形型、愛称グングニル」
「ああ、今度渡すね。いやあ、まさか魔力が実験でスッカラカンになるとは、思いもしなかったから驚いたよ」
「絶対大丈夫って言ったくせに、失敗したんだから自分の愛用している武器を貸した俺が、驚いたわ。だから、無限の実験には参加しない。前だって、よくわからない古代魔法、発動しちゃったし」
随分と痛いところをついてくる……
幾多の失敗が、成功を生み出すというのに……
あれ?なんか人間と似てる?
「とにかく……俺は実験に参加しない」
「いや、実験じゃないよ」
「……なんだ違ったのか?」
ようやく話を聞こうとしてくれたことに内心ホッとする無限、そこから笑っていきなり本題をぶつける。
「話っていうなはね、優多を香花ファミリーに迎え入れよう計画!」
勢いよくそう叫ぶ無限に、カイトはうるさそうに耳塞いで、「で?」という視線を送る。
「ってか、香花ファミリーってなんだよ。そんなのここに来たからも、生まれた時からも聞いた事ない」
「まあ、さっき設立したからね」
カイトはため息をついて呆れたように突っ込む。
「何かの企業かよ。まあ、新人を迎えるなら否定はしない。いつやるんだ?」
「お!珍しく食い気味……えーとね、まず、香花界主であり、世界の要とも言える僕が最初の挨拶をする。そして、メイドさんやお手伝いさんも含めた香花ファミリーの簡単な自己紹介」
「いや、学校の始業式かよ」
「えー、じゃあどうすりゃいいの〜」
「いや、知らない事気になる事を聞いて、詳しく説明して、安心させたり、自己紹介は俺たちだけでいいだろう?」
「んーまあそれもいっか」
「じゃあな」
「え!もっと話そうよ〜」
「お前は女子か!」
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