第4話運命に似た伏線

「うう……」


まだ脳裏に焼きついている、恐ろしいあの空気、夢にまで出てきそうな物だ……

いろんな人から生け捕りされた異形を見る様な目。今でも怖い……


吐き気の様なものが口の中で行ったり来たりする感覚に優多は長時間苦しんでいた。

気分が悪くて気持ち悪く、吐きたくても吐けない苦しみに耐えぬく他、やる事も何もない。


酷いところだ、床のタイルはところどころ剥がれコンクリートがほとんどむき出しの状態で、砂も大量に混ざっている。

蟲も時々見る、いわばゴキブリやムカデ、蛾や蜘蛛など、とてもじゃないが、触れ合いたくない類の生き物達、それが大量にいるのだ。


それに加え、ここの匂いも酷い……煙臭いというかカビ臭いというか、湿気臭いというか……

いや、それ全てが合わさった様な匂いで苦しい。


改めて周りをよく見てみれば、酷いところが多い。いや、酷いところしかない。

でも、今の優多には正直そんなのはどうでも良いとだんだんと思えてきた。


「……痛い」


頭を抑えて小さく呟いた。

今回の件で、精神にもきたのかどうか分からないが、頭痛と吐き気が酷くなってくる一方で、辛い……


「何か……飲むもの……」


喉の渇きも限界になってきた……

自分のお腹から音が出てきた事で、空腹である事も自覚する。


「……うーん、やばいなこれ、軽く脱水症状が起きるかも……はは」


力なく小さな声で、短く乾いた笑い声を上げる。

優多自身、もう何でもいい気持ちが強く、もう嫌になっている。

これを絶望とでも呼ぶのだろうか?

いや、違うか。


「……ははは」


また、力ない小さな声で、短く乾いた笑い声を上げた。


ーーやっと見つけた。


「ーー!?」


ふと、聞こえたその声に、優多はハッと埋めていた顔をあげ、周りを見渡す。

優多の心情は恐怖だけしか感じれなかった。


今はまだ一人でいたかった。人とまだ接したくない……

まだ一人でこもって、心の整理をしていたかった……


ーー怖がらなくていいよ、君は……優多、だよね?


「ーー!?」


突如として発さられた自分の名に優多の表情は蒼白になり、何も考えられなくなって、何をするべきかも分からなくなる。


ダメだ……もう、考えちゃダメだ。今はこの場を切り抜けることだけを考えなきゃ……


そう思い、咄嗟に出入り口の扉に身体を向けるが、


ーー大丈夫、出てきたくないのは分かるよ、まあ君にしては……いや、君の見ている世界からは想像だにしない現象だからね。しょうがないよ。


優多の動きが止まった。驚きが隠せなかったのだ、自分がここで身を隠す目的を知っているのに……

何が起こって、何が進んでいるのか理解できない……


アニメやライトノベルとかの世界じゃないんだ、魔法などの超常的な現象は、それが起きてほしいという想像から創られた、夢でしかないんだ。


ーー驚きを隠せないのも分かるけど今日起きた事、つまり異変について知りたいんでしょう?だったら聞いて、


その言葉を聞いて、優多は口を震わせながら言う。


「な……なんで、貴方は僕の思ってることが分かるんですか?」


ーーそうだね……心を読める力があるからなかな?


「……」


ーー夜中の一時、君の学校の体育館前で待ってるよ


それから、謎の声は聞こえなくなった。

本当、人の言葉って不思議な気持ちになるもんだ。話していれば内容はどうあれ、不思議と余裕が出てくるもんなんだと改めて実感できた。


ふと、自分が独りでに微笑んでいるのに気付いて、


「不思議なもんだな……会話って」


小さく、優多は呟いた。


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その夜は風が強く、木や門前にある国旗を掲げるポールはよく揺れている

乱れる髪を手櫛で整え、曇りがかった夜空を見上げて少し寂しい気持ちになった。

理由はない。ただ、自分の中で今見た風景は一番悲しく、切なく、寂しい気持ちにさせるのだ。


結局、家には帰らなかったが、大丈夫ではないことは自分でも分かっている。

いつも、晩御飯を作るのは自分である。

だから弟二人は怒ってるだろうな……


優多は、申し訳なさそうに二人の顔を思い浮かべ、


「今日は作らなくてごめんね」


と、呟いた。



ちょっと寒い。

震えるほどではないか、涼しくはない。

やはり、夏が終わったから夜も徐々に冷えてくる。

でも、現に吹いてるこの冷たい風のせいでもあるのだろう。


優多は、手をポケットに入れ夜道を独り進む。

点々と道を照らす街灯の光に照らされてーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あー……凄い爆発だったねカイト」


少年は全身の至る所が焦げ、口から黒い煙を出しながら声をかけた。


「そうだな。……で?どうすんだ?」

「ん?どうするって?」

「この吹き飛んだ別館の再建だ。この館を戻すのに早くても開智 無限。お前の力を借りて2日だ」

「そうだね、じゃあちゃっちゃとやっちゃおう。やって終わらせよう」


そう言って身体を軽く柔軟させ、

両手で小さな空間を作ると、そこから白く、眩い光が発され、その小さかった光が徐々に大きくなって行く。

その、動きと共に爆発した別館が徐々に光を帯びていく……


「やるのはいいんだが……このあとお前仕事あるんじゃなかったのか?」

「……ああ、まあ今は別館の再建を優先しなきゃ。それにこのあとの仕事もそんな大きなものじゃないし、後に回しても山にはならないから大丈夫大丈夫」

「心配だな……」

「いや〜珍しいね、僕のことを心の底から本当に心配してくれるなんて」

「言葉が足りなかったのか?それともお前の理解力が足りなかったのか?」

「うーん……どっちもだと思う」

「……そうか、なら詳細含めてきっちりちゃんと話す」

「お、ありがとう」

「まず、心配しているのはお前ではなく仕事に関係してくる人たちへの配慮だ。お前がそんな風に仕事を後回しにする度、処理が簡単なものまで難しくなっただろう。分かりやすく言えばだな……」

「あー!あー!もう分かったから!耳が痛いなー!もう!」

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