10-3

 退夢師の資格を取ってからのワタクシは、徹して誰とも仲良くなろうとはしなかった。

 人と関わることで、浮き沈みする心の隙を突かれ、スイマーズに堕とされてしまうのが怖かったから。

 当然、レインボーには怒られたわ。

 ただ、『自分がありのままでいられる友を、仲間を作れ』と言われたところで、ワタクシにはどうすればいいのかわからなかったの。


 ちょうどその頃、たまたま雑誌で見かけた、全国絵画コンクールの入賞者発表の記事。

 金賞受賞者、黒崎晃くんの作品を見た時、ワタクシの心は震えたわ。

 どうしてもその絵をこの目で見たくて、ワタクシは一人、絵が展示されている会場まで行ったの。

 そして、ワタクシはその美しい絵を前に泣き崩れた。ただただ、涙が止まらなかった。


 『夏』の三部作の内の一つ、『流星群』……


 心が洗われるようだった。

 誰かへの強い想い、素直な自分の気持ち、そしてそれを伝える力。

 ワタクシにはないものが、その絵には全て詰まっていたわ。

 そんな時にふと思い出したのは、ワタクシがヒーロー好きになったきっかけだった。


 幼稚園の頃見つけた、新聞に小さく載った『家族戦隊ファミリンジャー』と命題された絵。描いたのは……そう、黒崎晃くん。


 戦隊ヒーローを目指せば、ワタクシにも仲間ができるかもしれない。ワタクシはもっともっと、強くなれる。そう思わずにはいられなかった。

 そして、ワタクシはみんなを誘いタイマーズを作った。

 黒崎くんがワタクシたちの学校に転校してきたのは、まさに運命よ。

 ワタクシたちは出会うべくして出会ったの。


 どう? ワタクシの言ったことは間違っていなかったでしょ? 黒崎晃くんという男の子は、悪夢祓い倶楽部に必要不可欠な存在だって。

 すべては『流星群』の絵が物語っていたってわけ。


 つまり、そう言うことよ!


 えっ? わからない? グリーン、説明してあげて?

 そう、日本で見られる三大流星群の内の一つ、ペルセウス座流星群でさえ、多くて一時間に六十個くらいなの。

 グリーンの言ったままを繰り返しているだけじゃないかって? いいじゃない、そんなこと。


 その流星群を見たまま絵にしても、ただの流れ星の絵にしかならないわ。だから、流星群の絵として描きあげるには、本物を見た上で、想像力と表現力が必要なの。現実なら瞬きしている間に消えてしまう流星群を、あんな形で表現するなんて脱帽よ!

 次点だったとは言え、『打ちあげ花火』も『スーパーセル』も絵とは思えない凄い迫力だったわ。


 それにしても、妹さんの夢の中なのに、ダークは本当に気持ちよさそうに眠っているわ。よっぽど疲れたのね? 起きた時、覚えているかしら? ワタクシたちを、妹さんの夢を、自分が守ったんだって。


 レインボーはいそがしいって先に帰っちゃったし、ワタクシたちもダークが起きたら帰りましょう。ダークの妹さんの病室に。

 早く退院できるといいのに……ね?


 イエロー、グリーン? 何、その複雑な顔? 何か隠していない?

 アナタたちまさか、妹さんのプログラムをいじったんじゃ?

 えっ? 再構築する時に、病気のことを削らないと、夢に不具合が出て正常動作しなかったですって? 本当かしら?

 まぁ、いいわ。悪夢祓いのためですもの。たとえバクの報告が入ったとしても、協会もうるさくは言わないでしょう。反省文くらいで。


 ん? ダークのサポーターがバクじゃないって知っていたかって?

 最初から気にはなっていたわ。けど、バク以外の夢の世界の住人を、サポーターに持つ退夢師なんて、聞いたことがないもの。それがアルプだと知って二度ビックリよ。

 アルプ……妖精の国アルフヘイムでは光の妖精と呼ばれているわ。夢の世界では、めっきりその光を失っていたみたいだけどね。

 黒崎くんの名前は晃だし、そう考えると彼にはピッタリのサポーターだと思わない?


 フフッ……可愛い寝顔。あっ、ゴメンナサイ。見ていたら突っつきたくなるホッペだったから。ブルー、何で口をとがらせているの? 自分も突っつきたい? じゃぁ、一緒に突っつく?


 あっ、気づいたみたい。ん? そんな格好でいいのかって? 三つ編みもほどけちゃっているし、服もボロボロね。いいのよ。ダークと一緒に戦った証ですもの。


 ダーク! えっ? 名前で呼んでやれ? そうね、戦いも終わったことだし。


 黒崎くん! 黒崎晃くん! 大丈夫?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る