7-3

 病院裏、自動販売機の横のベンチ。

 キレイに刈られた新緑の芝生の中を縫うように、タイルばりの細い歩道が駐車場まで続いている。


「妹ちゃんがここの病院に入院しているって前に言ってただろ? だから、黒崎がきていると思って」


 ボクは缶ジュースのプルトップに指先をかけ、一気に持ちあげる。

 否定はしない。大体いつもここにいるから。


「それにしても、オマエの母ちゃんって面白いのな? フッ……思い出したらまた笑えてきた」


 否定はできない。大体いつもあんな感じだから。


「お母さんの話はもういいから。浅黄くんは悪夢祓い倶楽部の話できたんでしょ? 何でわざわざ病院? 学校でもよかったんじゃ……」


 ビューッ!!


 ひと際強い風が吹く。駐車場のまわりを囲む木の枝が、波のように大きく揺れた。


「わっ、ペッ…口に砂が入った。ペッ、ペッ……ペッ、ペッ……


 またデジャヴ。

 行動プログラムを読み出した夢がデジャヴだと知ってから、頻発している気がする。

 ボクは口をゆすぐように、ジュースを一気に飲み干した。

 浅黄くんは缶ジュースを両手に握りしめたまま、体を前に倒して膝に肘をつく。


「一つ、誤解をといておきたくて……さ」

「誤解?」


 自然にかたむくボクの首。


「黒崎って、紅子のこと、どう思う?」

「はぁ?」


 あんまりにも突拍子もない質問に、あいた口がふさがらなかった。

 誤解をとくと言っておきながら、夢ヶ咲さんをどう思っているかなんて、ボクに聞く意図がわからない。

 けど、この際だからハッキリと言っておこう。


「どうって……悪夢祓い倶楽部のリーダー。見た目はキレイなのに、しゃべるとガッカリ。どこの野生児かと思うほど運動神経がいいけど、とにかく頭はとっても残念。言葉が足りないから、結局何が言いたいのか、よくわからない」


 ズケズケとまくしたてるボクの言葉に、さもありなんとうなずく浅黄くん。


「自信家でマイペース。人の都合は考えない。甘いものがキライ。授業中は寝ている。夢の中での服のセンスはいかがなものかと」

「そうだよなぁ? いくらヒーロー好きだからって、あれはなしだろ? なぁ? 何か古くさいって言うか……」


 いや、浅黄くんがそれを言う? 格好に関しては、ボクは浅黄くんも認めていない。五十歩百歩でしょ。


「どうした?」

「いや……ゴクン……何でも」


 それは口に出さず、取りあえず飲み込んでおこう。


「あとは……行動力があって、みんなから好かれる凄い子」


 ボクは風に揺れる木を見つめた。

 わかっているんだ。夢ヶ咲さんがどんな女の子かって。わかっているからこそ、白黒つけたいこともある。

 浅黄くんが人差し指を立てて、ボクをさす。


「その紅子のイメージがそもそも誤解なんだよ」


 はい? 夢ヶ咲さんのイメージ? そのものズバリだと思うけど。

 浅黄くんは遠くを見つめ、思い出すように話し始めた。


「紅子は友だちがいなかった」

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