5-5
「ここよ!」
ガラッ、バンッ!!
夢ヶ咲さんが急に立ち止まり、五年一組の教室の引き戸を勢いよくあける。
やりたい放題だな。自分たちが気づかれないからって、堂々としすぎでしょ? いくらなんでも、さすがにバレるんじゃ……
それが、取り越し苦労だとわかるのに、たいした時間はかからなかった。引き戸の向こう側、教室の中は、誰一人としてこっちを振り返ることなく、みんな黙々と授業を受けていた。
「あの子ね!」
夢ヶ咲さんが指をさす先、イスに座ったまま本当に眠っている子がいる。
教室の一番うしろの窓際。窓から差し込むポカポカの陽の光を浴び、下を向いて幸せそうに笑うショートカットの女の子。
等間隔に並べられているはずの机が、女の子の机だけみんなの机から離れて飛び出している。まわりの子たちは、その女の子が寝ていることに気づいているはずなのに、クスクス笑っているだけで、起こしてあげようという気はまるでないらしい。イヤな雰囲気が、こっちまでビシビシと伝わってくる。
もしかして、イジメられている? けど……
「あの子が悪夢を見ているの? 笑っているように見えるけど」
「悪夢って、怖い夢のことじゃないのよ?」
教室の入口で仁王立ちしたまま、眠っている女の子を見据える夢ヶ咲さん。
どういうこと? と、夢ヶ咲さんに聞いたところで、『つまり、そういうことよ!』としか返ってこないのは百も承知だ。ボクは、少し強ばった顔をする川緑くんの肩を突っつく。
「日常に悪影響を及ぼす夢が悪夢。あの子はその中でも、かなり厄介な悪夢を見ているみたいだ。この手のタイプには十中八九、スイマーズがいる」
ボクはビックリした。近ごろは何かとイヤミっぽい口調の川緑くん。けど、そんな悪態をついている余裕すら無さそうな今の彼。
前にも言っていたけど、スイマーズって、何? 水泳選手?
「行くわよ!」
とても嬉しそうに眠るショートカットの女の子に向かって、夢ヶ咲さんは勢いよく飛びあがった。
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