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さっき、レッドが指を鳴らしたじゃないですか。あれは、催眠術を使ったんです。
そう、催眠術。いえ、その催眠術じゃありません。勝手に手があがったり、体が板のように固くなったりもしません。
退夢師が使う催眠術は、強制的に眠りの世界に引き込む術です。クラスのみんなは起きているわけですから、今は白昼夢の真っ最中。レッドは小学校全部を白昼夢にすることができるので、ワタシたちのダミーを不思議に思う人はいません。
それにしても、ダークはやっぱり凄いですね? 何がって? ダークのダミー、見てください。まるで本物です。
えっ?
前に階段下で話をしていなかったかって? 教室にダミーを置いて?
え~っと……
ああ! ダークの話をしていた時ですね?
ダークを仲間にしたいって、レッドが。何でかって? さあ? ワタシもそこまでは。けど、ダークの夢でバクのタマゴを見つけたって喜んでましたよ?
何でわざわざ白昼夢にして話をしていたのかって? レッドがすぐにでも話したいことがあるって言うから……授業、サボっちゃいました。ヘヘッ。
そもそもバクって何かって?
夢の世界の住人です。あっ、それは知ってますね。
バクは退夢師や退夢師見習のサポーターなんです。夢の中での行動をサポートしてくれます。もともと自分の夢の中にあったタマゴからふ化しているので、相性はバツグンですよ。ワタシたちの考えていることまで読み取ってくれますし、夢の中で色々なものを出現させるのも、バクが協力してくれるからこそです。
えっ? ワタシのバクですか? バク美ちゃんです。
どうですか? 可愛いですか?
変身した時の姿って、自分のバクの姿なんですよ。ダークは大きいですよね? 何ででしょう?
そう言えば、変身する理由って言っていましたっけ?
現実世界から直接夢の世界に入るには、バクに変身しないとダメなんですよ。いきなり眠れと言われても、困っちゃいますよね?
あと、ダミーを出したまま変身しないでいると、ワタシたちは二人いることになっちゃいますから。そう、ダークが見たように。
バクに変身すると、白昼夢の中では誰からも見えなくなります。
ほらっ、ちょうど教頭先生がこっちへ歩いてきますよ。大丈夫ですよ、隠れなくても。ホラ、ホラ、ホラ……ね?
ワタシたちをチラッとも見ずにいっちゃったでしょ? 便利じゃないですか? 変身って。
はい? はぁ……監視ですか? バクに?
監視されているって言うと、違うような気がしますけど……
退夢師には、決まりがあります。
他人の夢の中に入るんですから、好き勝手にってわけにはいきませんよね? ダークだってイヤじゃないですか? 自分の夢が知らない人に荒らされたら。
退夢師が陰陽道からわかれた時からあるらしいですよ。退夢法度。
法度その壱、退夢師の資格のないものが、勝手に夢に入ってはならない。
法度その弐、退夢師の資格のないものが、深層ドリームの扉をあけてはならない。
法度その参、退夢師または退夢師見習いは、悪夢を生み出してはならない。
法度その肆、退夢師または退夢師見習いは、いかなる理由があろうとも、正常動作しているプログラムにアクセスしてはならない。
法度その伍、退夢師または退夢師見習いは、夢での内容を他人にもらしてはならない。
以上いずれかに違反した者には切腹を申し渡す。
ウソです。そんなに目が落ちそうなくらい驚かなくても。
あっ、法度は本当ですよ。
違反すると、バクのネットワークで悪夢祓い協会に連絡が入るんです。それで、話し合いのすえ、罰が決まる……と。どんな罰かって? 違反の度合いによってまちまちですけど、退夢師の資格停止とか、重い場合は資格取り消しもあるみたいです。
はい、結構厳しいんです。
この法度は、ワタシたちを守るためでもありますから。だって、紅子ちゃんやワタシたちの夢だって、いつ祓われる側になるかわからないですもの。
バクはみんなを守っているんです。もちろん、夢の中でのワタシたちも。だから、監視されているなんて思わないでください。可愛いんですから。
あっ、ついたみたいですよ?
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