ステップ2 夢の唐突さを知る

2-1

「スマホ……かな? これをボクにどうしろと?」


 ボクはベッドにうつぶせに寝転がって、手にしたスマートフォンをジーッと眺めた。


 逃げるように学校を飛び出して、その足で息も絶え絶えに真弓の入院している病院へ向かった。いつもより短い面会で、不満いっぱいの真弓の悲しそうな顔に、うしろ髪をひかれる思いで家に帰る。そして、寝る前の明日の準備でランドセルをひっくり返した時、教科書やノートといっしょに転がり落ちてきたスマートフォン。

 たぶんあの時、夢ヶ咲さんがボクのランドセルにねじ込んだに違いない。


 実際のところ、スマートフォンにしては小さいし、端子がどこにもない。充電端子すらない。カメラのレンズもなければ、一番大切な電源スイッチもない。画面以外、何もない。どっちが上かもわからない。オモテかウラかくらいしかわからない。

 何もわからないもどかしさで、スマートフォンを握りしめながら、ベッドの上をゴロゴロと左右に転がる。


 え~っと、メーカーは?

 ウラに英語で書いてある。これくらいの簡単な英語なら……


 『Timers』……タイマーズ? 


 何だ、このメーカー? メーカーじゃないのかな? タイマー……タイマー? もしかして、これはタイマーなの?

 タイマーなんて、インスタントラーメンを作る時くらいしか使わない。

 それにしても、どうやったら、電源が入るんだ、コイツは?


 ブオンッ!


「うわっ!」


 ボクはとっさに、足元のフワフワのクッションに、怪しげなタイマーを放り投げた。怪しげなタイマーは、クッションに沈み込んで、ボヤッと鈍い光を放っていた。


「あれ? 電源が入ったぞ?」


 ボクは恐るおそる、怪しいタイマーをのぞき込む。どうやってスイッチが入ったのかわからないけど、怪しいタイマーの画面にはカウントダウンする数字はなく、丸い変なものと『接続完了しました』の文字が映し出されていた。

 すぐに文字は消え、丸い変なものだけが残る。


 原色だらけの毒々しい色の、例えるならイースターエッグ。

 そうだ、タマゴだ。色はともかくタマゴっぽい。

 スマートフォンのような機械に、タマゴっぽい映像。少なくともタイマーではなさそうだ。ゲームかな? ちょっと頭が追いつかないや。


 フワァ~……もうこんな時間?


 眠くなってきた。部屋の時計は十二時をまわっている。

 そう言えば、整頓された記憶から夢のストーリーができるみたいなことを、川緑くんが言っていたっけ。

 今日の記憶で、いい夢が見られる気がまったくしない。

 悪夢を見たら、夢ヶ咲さんに責任とってもらおう。あんな変わった子でも、悪夢祓い国家資格認定退夢師なんだから。


 フワァ~……ムニュムニュ……悪夢祓い……

 ギリギリ……タマゴ……ムニュムニュ……グゥ~……

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