35 本当に床に額こすりつけて謝らせたのかは秘密
「『王里』が混血なのはわかったよ。だけど……ああ、その月虹蝶々と人間の」
「混血なんだよ、ボクもね」
「……も?」
「ヒント『王里』は2人じゃないんだ」
王里を見つめながらふっと笑って言った里桜に、空亡が目を細める。そしてヒントだ。まるで、他にも『王里』がいるような言い方に問い詰めようとリヒトが口を開こうとした。
王里はいま怪奇だ、人間と月虹蝶々の血がわかれたというのならなおさら。他に何の血が入っているのかと聞こうとしたところで。
ふいにろうそくの火が揺れる。風が室内に入り込んだからだ。やけに寒い風が入るなと障子の方を見れば、里桜以外の全員が驚いた。音もなく、無残にも骨組みさえばらばらにされた障子の残骸がそこにはあったからだ。ただ驚きはそれだけにとどまらない。
「「なっ!!」」
「……どういうことかな? 里桜」
「ごめんね、これは完全にこっちの不手際。床に額こすりつけて謝らせるから許してー」
王里の目の前で火花が散った。
リヒトも、空亡ですら対応できない速さで、攻撃されたのだ。しかし火花が散ったということは当然防いだものもいたということで。
突然のことに目を丸くするだけだった王里に、ろうそくの明かりでよく見れば下座にいたはずの里桜が目の前でいつの間にか持っていた白っぽい薙刀と打ちのけの多い刀がぎりぎりと鍔競り合いをしていた。力と力の戦いだと容易にわかるそれ。やがて里桜が薙刀を力任せに振り払って、刀を退ける。それと同時に、草履で中に入ってきていた賊は後ろに下がった。
紺の着物にろうそくの明かりに照る鮮やかな腰まである黒髪。右目は赤、左目は満月色のオッドアイだがその姿は若かりし頃の空亡にそっくりな青年で、内心リヒトと空亡は絶句する。どちらかというと、母の死後出家してしまった父にの王里にとって、それは親近感を抱かせる面差しで。まあだからといって殺される義理はないし、そもそも<5ツノ真理ノ誓イ>のおかげで殺されるわけもないのだけれど。
軽い音をたてて、上座に上がっていた里桜が降りる。
「ウラ、どういうつもり?」
「リオ、どういうつもりだ?」
「それはこっちのセリフなんだけどなー?」
「華を! こいつらに返すとか! 同盟とか! あり得ねえだろ!? こいつらが俺に、俺たちになにをしたのか! 覚えてねえわけじゃ」
「わかってる! ……それでも華は「帰りたい」って言ったんだよ。なら、そのためなら。どんなにこの心を傷つけても返してやるのが兄でしょう!?」
「―――!! ……こいつらは、茅花は」
「ウラ!!」
「
心からの怒声に。
息を呑んだ面々。その耳に、唐突にその音は聞こえた。
がしゃんと瀬戸物が割れて響いたかわいた音。
思わず全員でそちらを振り返れば骨組みさえずたずたの障子の向こうの廊下に、白い顔をした華がいた。足元には散った湯のみらしき残骸と液体……入っていたお茶だろう。からんからんと回るおぼん。ああ、足袋が濡れて可哀想だと里桜は場違いに思った。
「うらにい、それ、どうゆうこと?」
小さく呟かれた声は、今にも泣きだしそうだった。
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