34 女王の駒はどこにでもいる
「つまり君は王里の人間の部分で、身体をわけては李杯の世界怪奇方面賊改方をやっていたと?」
「うーん。詳しくは違うんだけど、大筋はあってるかなー?」
「……聞きたいことが増えてしまったよ」
「あ、ぜひ里桜って呼んでね」
「わかったよ、里桜」
後ろ髪をひかれつつも怪奇方面賊改方たちは仕事を放りだすわけにもいかずに、夜の百目鬼町へと散っていった。王里、リヒトを残して出払った大広間で上座に王里と空亡、下座には里桜とリヒトが向かい合って座している。その上座で空亡は答えながら老いて白くなった頭を抱えた。ろうそくの明かりでほんのりオレンジに見える髪。
そこで、それまで黙っていたリヒトが口を開く。華は久々の茅花で厨のほうからお菓子があるからおいでと誘われたため行ってしまった。
「身体をわけたっつーのはどうやってだ?」
「ボクの半身……あー、めんどくさいな。「王里」の影をもらって、それに実体を持たせたんだ。影、ないでしょ?」
「おや、本当だね」
「……どうやってじゃ?」
「うーん、できるからとしか言えないんだけどー」
「俺の半身は天才なんだ!!」
「親父は黙ってろや」
困ったように微笑みながら頬をかいた里桜に、王里はぐっと拳を握った。そんな仕草すら可憐で儚く、実に愛らしい! と。さすが俺の理想の半身、夢にまで見た邂逅に神に感謝したほどである。信じてもいないが。王里にぴしゃりとはねのけるように言葉を返して、リヒトは正座している里桜を上から下まで見つめる。
(本当に姫様に生き写しじゃな……生き写し? ああ、そうか!)
思い当たった出来事に、リヒトは内心手を打った。いつの間に頭を抱えるのをやめたのか、生暖かい目で空亡は王里を見ていた。
「姫様同様のお力ということかの?」
「どういう意味だい? ぬらりひょん」
「姫様には、供物となる人間には特殊なお力が」
「月虹蝶々にはそんな力ないよー」
「「「げっこうちょうちょう?」」」
きっぱりと言い切った里桜に、空亡、王里リヒトの視線が集まる。
ひどく困ったように笑いながらも、その一点だけは強固に否定した里桜に。そう、供物となる人間には一定の基準があるのだ。その絶対条件として、貴族であること、女であること、そして何より人間ではもちえない特殊な能力を有していること。最後の特殊な能力云々で昔は供物となる人間は優遇されたり冷遇されたり迫害を受けたりと地域によって差はあったようだ。姫の方は迫害される側だった。
例えば草花の成長を速めることができるものという小さなことから、身体の年齢を自由に操れるものなど大きなものまで。そして姫も大きなものの類だった。癒しの加護を与え、軽い病気やケガならば負わないようにするという戦線ではとてつもない重要な能力だった。
だが月虹蝶々なんて聞いたこともない単語だ。あれほど否定するのなら能力名ではないのだろう。見つめられた里桜は、やがて観念して緩く首を振ると大きく息を吐いた。
「遠い遠い、昔話だよ」
そうして語られたのは神の世に住む、一匹の蝶々の恋と生き様。
天にある神世にいた蝶が気まぐれに下界におりてきた時、ある男の部屋へと迷い込んだ。やがて男に恋をした蝶は男に様々な祝福を与えたが、それを知った男の弟が自らも蝶を手に入れようとしたため、1人と一匹……人の姿をとった蝶は逃げた。逃げた先で男との間に子どもをもうけ、子を産んだために蝶は死んだ。
それは子孫にすら伝わることのなかった、月虹蝶々の血を引くものたち、癒しの加護や様々な治癒系統の加護を持つもののルーツだった。
だが。
「なんでそれをてめえが知ってる?」
「青の女王陛下から聞いた。……改方だったんだ、意味は分かるよねー?」
「青の……陛下って、てめえまさか女王の
はっとリヒトは里桜を見た。ただ黙ってにっこりと完璧なまでの笑顔を浮かべている里桜を。それだけで答えがわかり、だが同時にわからなくなる。
青の女王。世界中で最も美しい生き物、世界中全ての最悪、そしてあらゆる混血たちの王。この女王はどこの世界でもない異空間に
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