24 それは深い愛だった
「ボクさ、今度子どもが生まれるんだ」
<……は>
「だからさ、その子の一番最初の友達になってやってくれないかな? 子も孫も玄孫もずっとずっと、君がもういいと思うまで」
<なにを、言って>
「君、ボクの
<なぜ、オレのためにそこまでする?>
純粋な疑問だった。
初めて会った相手だ。しかも空亡は自分を知っているようだったし、中国では悪鬼羅刹の名を轟かせていることを当然知っているだろう。そもそも今日だって、四六の魔の手からこの港町を守るために来たのだろうから。なのになぜ、自分を見逃すような、それどころか身内に引き入れるような真似をするのか。しかも子どもの側、自らの弱点ともなりうる場所の側に置こうとするのか。
尽きない疑問に、いつの間にか枯れた涙で首を傾げながら問えば。
簡単なことだよ、と空亡ははにかんだのだった。
「君がボクと同じ、ひとりぼっちだからだよ」
1人と1人が集まって2人になり、そして家族に集団になっていく。ボクには妻がいてくれたように、君にもきっと誰かが必要で。ボクの子どもも孫も玄孫もきっと誰かが必要なんだ。
穏やかで、優しい眼差しで語る空亡にいつの日かの母の面影を思い出して、四六は勝てないと思った。
勝てない、勝とうとも思えない。それこそが空亡という存在なのだと思わされた。
やがて、四六は水神の名を捨て。魍魎と名を改めた。四六をシロクと名乗った。そして歓楽街の猫又呉服店で白い羽織を空亡から着せてもらい茅花の一員と認められ、空亡とともに白い羽織をひらめかせては戦陣を駆け日本統一を成し遂げ。<5ツノ真理ノ誓イ>は成されたのだった。
彼の、空亡の子どもと友になり、孫の友となった。
それがシロクの生きる意味で、本家にいる存在理由だったからだ。遊びもした、学びもした。それだけで心がいっぱいになるほどの充足感と泣きたくなるほど満ち足りた日々の連続だった。母の愛以上の何かを得る日々だったことだけは間違いない。
空亡の妻である人間の血を、受け継いだ最初の友はその血が表に出ることはなく怪奇だったが。2番目の友は半分空亡、半分空亡の母にリヒトではないぬらりひょんの父をもってしてもなお人間の血が色濃く出てきてしまった。
幼い頃はそれでよかった。ただ可愛い存在なだけでよかったから。でも大きくなるにつれてそうはいかない。純粋な怪奇は昼間も動けるのに対し、人間の血が濃くでてくる限り使える時間は普通の怪奇半分だ。それに年々大きくなるにつれてそうもいっていられない。
いままではまだよかった。空亡が統治して、鬼札もいた。
しかしこれからは違う。空亡は老い、鬼札も他者へと渡ってしまった。
甘やかして共に学び遊ぶだけでよかった友は、16歳にして絶対的な強者であらねばならなくなった。それならと、シロクは思った。
彼の孫は、自らの友である。友のために命を差し出せるような覚悟を持つものがどれだけ本家にいるのかわかった先の集会での反応。
ならば友のために、その成長の糧になろうと思う。そのためにたとえ命を散らそうとも。
それだけがただ、シロクが王里に反旗を翻した理由だ。
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