6 茅花集会は月一で開催される
半月後。夜の帳が降り、あたりがすっかり暗くなったころ。茅花集会にて。
ぼんやりとろうそくの灯るほの暗い茅花家の大広間。人間がゆうに200人は入れるだろうそこに、等間隔に大小様々な身をろうそくの炎に照らされながら日本怪奇、百鬼行路は全国各地から集まっていた。
板間に畳が敷かれ一段高くなった上座。正面から見て右に空亡、左には王里が並んで座っていた。空亡の方、右側にはずらりと紫の高級な座布団の上に怪奇たちが並んでいるのに対して、王里の方は1人もいない。がらんどうとしていた。
「賊改方は空亡様になる途中経過とは言え……」
「鬼札様を奪われるなど、此度の失態どうするか見ものじゃな」
「これこれあまり責めたてるでないわ。まだ16の若造ぞ、ひひっ」
「茅花の『
じろじろと空亡の祖父を隣に据えながら顔を上げつつも目をつぶってしまっている王里を見ながら、怪奇たちは嘲笑う。しわがれた声に白い髪、黒やところどころ白の混じった髪の毛で編んだ着物を着た歳の分からないくらい老いた女、
「覇」という文字は、全国統一天下統一をなし遂げ鬼札を手に入れた家にのみ与えられる称号だ。華が攫われたとき、なんとか本家の屋敷に燃え移るのは河童たちと協力して阻止したものの。燃えてしまった「覇」の描かれた提灯、重ね松ごと煤焦げてしまった門も、そのまま半月が経過している。
その意図は簡単だ。鬼札を奪われ覇紋が消えてしまったからである。白い羽織に染め抜かれたものもなくなってしまった。墨で書かれたはずのそれがどうやってなくなってしまったのかわからない。けれどそれが決していいことではないのは日本各地の幹部を集めた今回の集会でもわかるだろう。また、欠席しているものが目立つ、その意味も。
「おいおい、ぬらりひょんよぉ。お前さんはなにか言わんのかね? 特攻隊長だろう」
けけけっと嘲笑いながら言うのは鋭い爪に指の合間には水かき。麻色の着物を着てはいるが、そのところどころ破れたところから見える肌にはぬめったうろこでおおわれている。目つきは虎で、牙は鋭く頭のてっぺんまでうろこでおおわれており、その頭の上には白い皿のようなものがのっている。
青年はただじっと目をつぶり、腹の鎧をぼんやりとろうそくに照らしながらその上で腕を組み。なにを言われようとも無表情で黙っている王里を見ていた。
「……黙ってろ、三下共が」
「ああ⁉」
「てめえ、初代様から西日本
「だったらわしの上をいってみろや、三下」
ぎろりと鋭い赤い目に睨まれドスのきいた低い声ですごまれて、水虎や王里の今後の処遇について囁き合っていた幹部の怪奇たちがその雰囲気に当てられてきゅっと委縮する。やっと口を閉ざしたそれらい満足そうに頷いて。目を細めるとまた王里へと視線を戻す。そこでやっと、王里が動き出した。
おもむろに床へと両拳をつき、軽く頭を下げてそのまま。口を開く。
「此度、鬼札が奪われたのは私の責任でございます。この身煮られ焼かれようとも……などたァ次期空亡の身として申せません」
「それじゃあ誰が」
「どうやって責任を取るつもりだ!!」
「……るせえっ! 黙っとれ言うとるだろうが三下共!!」
古びた大きなことを背負った細身の青年である
息を吸った瞬間たたっ斬られそうなぴりぴりとした重圧感は確かに西日本の怪奇方面賊改方長官を空亡より任されただけのことはあると思わせる何かがあった。
そのほかにも、はらはらした顔つきでこちらを見ている狼男と。ツインテールの紫の髪の根元には大きな鈴、小さい顔のサイド左側のみを三つ編みにしている赤目の幼い少女、古代紫の着物のあちらこちらに小さい鈴をつけた鈴彦姫。この2人は王里が小さい頃からお守り役をしているため情が移ってしまっているのだろう、心配そうな顔つきを崩さないまま王里をうかがっている。足をむずむずと動かしていることから、いまにもこっちに来たいと言わんばかりだ。かといって、2人の一族は初代である空亡に救ってもらった恩がある。長の立場でそう簡単にその恩を裏切ってまで王里にはつきにくい。
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