Ⅲ. ウルカーン編

008. 狩人

「どこだよ、ここ……」


 うだるような暑さ、久しぶりの地上の空は雲一つない快晴である。


 ボロ布ローブ一枚の俺は体中汗まみれになりながら、額から流れてくる汗を右腕で拭った。すると、「ぐぅぅ……」という音を立て、自分のお腹が空腹を必死に訴えてくる。そういえば、昨日の夜からずっと何も食べていなかったな。

 自分のお腹をさすりながら、呻いた。


「あぁ、腹減ったな。それに、街なんてどこにもねぇぞ……」


 見渡す限り全てが草原。街の気配など微塵もない。

 とぼとぼと、周りを見渡しながら舗装されていない道を俺はただひたすら歩き続けていた。


「――そんなところで何をしているんだい?」


 声がした方向を振り返ると、後ろには見知らぬ若い男性が立っていた。

 咄嗟に俺は身構える。しかし、その男性は襲ってくることはない。


「おっと、驚かせてすまない。僕の名前はバトラーだ。ここら辺一帯を狩場にしている狩人と言ったら分かってもらえるかな?」


 どうやら、王都からの追手ではなさそうだ。

 俺はバトラーと名乗った青年にいまの事情を説明することにした。


「実は、ウルカーンという街を目指している途中で道に迷ってしまって……」


「なるほど、ウルカーンを目指していたのか。だが、そっちは目的の場所とは完全に逆の方角だよ。ちょうどいい、僕たちもウルカーンを目指しているから一緒についてこないか?」


 現状、何にも頼るものがない俺にとってそれは唯一の救いの手だった。


「お願いします」


 俺の答えを聞いたバトラーはにっと笑みを浮かべ、俺の向かっていた方角とは逆の方を指差した。


「よし、こっちだ。……えっと、名前はなんていうんだ?」


「ジュンです」


「おっし、ジュン。とりあえず、仲間と合流するけどいいか?」


「はい。よろしくお願いします」


 バトラーが向かったのは草原にポツリと張ってあるテントだった。

 彼の話によるとウルカーンには馬車で移動するらしい。狩人のメンバーは全部で四人。いまは全員狩りに出ているそうなので、挨拶は後になりそうだ。



「ただいまってあれ……もしかして、新入りか?」


 無精ひげを生やしたおっさんがテントの中へ入ってきた。

 その右手には狩りの道具である弓を持っていて、左の手には見たこともない鼠によく似た動物を逆さ吊りで持っていた。


「いや、道の途中で迷っているところを見つけて声をかけたんだ。名前はジュンっていうらしい。それで、ウルカーンに着くまで一緒に行動することになった」


「なるほど、俺の名前はロビンだ。よろしくな」


 握手を交わし、ロビンは笑みを浮かべる。

 残りの二人もぞろぞろとテントの中にやってきて、俺は彼らとも挨拶を交わす。名前はザックとライアン。二人とも大柄で、俺なんかとは比べ物にならないくらいの体格差があった。


「よし、みんな揃ったね。じゃあ、向かうとするかウルカーンに」


 バトラーがそう宣言し、俺たちは張っていたテントをしまい込み、柵に繋がれていた馬車に乗り込んだ。


「ジュンはウルカーンに行って何をするんだ?」


 ロビンがそう尋ねてくる。


「王都で出会った人からウルカーンに行くように言われたんです。それで、方角だけ教えてもらって、歩いていたら道に迷っちゃって……」


 「そりゃあそうだろう」とロビンにツッコミを入れられ、そのツッコミにザックとライアンも笑っていた。

 いま思い返せば、そうとう無謀な賭けだったと思う。


「翌朝くらいにはウルカーンに着きそうだな。それでも、どこかで休憩を挟まないといけないから夜はどこかで野宿になりそうだな」


 辺りはもう既に暮れかかっていて、西の空は茜色に染まっていた。牢獄からは見ることができなかった景色。その光景は随分と久しぶりの様に思えた。


「さぁ、テントを張ろうか」


 夜を明かすため、俺たちはテントを張る作業に没頭した。

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天使の黙示録 田中琴音 @sagu_sakura

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