007. 脱走
決行前夜。
俺たちは念入りに脱走の作戦を練っていた。
「王都は広いからね。ジュンが迷っている時間も考慮して、作戦を行う時間帯を考えようか……。兵士の隙を狙うなら、深夜か早朝のどちらかになるだろうね。でも、今回は早朝にしておいた方がよさそうだ」
「どうしてだ?」
メイソンの意見に、アランが首を傾げる。
「前回の脱走が深夜だったからだよ。あの脱走以来、深夜の警備は厳重になっているんだ。だから、早朝は多少手薄になっているはず」
「なるほどな」
「ジュンは王都の地形を把握していないんだろ?」
「そうですね。地形どころか王都の姿も確認していないです」
ここに運ばれるまでは、目隠しをされて、ロープで縛られていたので何にもわからない。皆が呼んでいる王都がどんな場所なのか、俺はまだ知らないのだ。まあ、想像通りだとは思うのだが……。
「なら、レンとアランはおとりに使うとして……。うん、僕とジュンで王都の外まで出よう。僕はその後に、こっそり牢獄に戻ってくるから――」
「ま、待て、おとりってどういうことだ?」
レンが怪訝そうに顔を歪める。
一方で、アランは仕方がなさそうに溜息を吐いた。
「どういうことも何もそのままの意味だよ。そんな白昼堂々と作戦を実行するわけないだろ。そうだな、明日の鉱石回収に行く時にアランとレンでひと悶着起こしてくれよ。そうすれば、楽に事が運ぶ」
「わかったよ。しゃあねぇな」
不服そうだったレンが渋々同意した。
「じゃあ、実行は明日の早朝。兵士が俺たちに手錠を付けようとしたところからスタートだ。さぁ、もう寝よう」
リーダー役を買って出たメイソンが仕切り、作戦は決まった。
*
「前から思ってたんだけどよぉ……、アラン。お前、酒飲んで酔っ払うとめんどくせぇんだよな。一発分殴らせろっ!!」
「殴れるもんなら殴ってみろよ、レン。昔からお前の拳なんてたいした威力でもなかっただろ」
「――んだと。じゃあ、殴ってやろうじゃねぇか」
「来いよ」
早朝。
牢獄の扉が開けられ、いつものメンバーが牢獄の前に招集され、数人の兵士によって手錠を掛けられている際に、アランとレンは行動を起こした。
まさか、ひと悶着というのが喧嘩だとは思わなかったけど……。
「何してるんだ止めろ――ぐはっ!?」
「おい、あの二人を止めろ。手錠は後で構わん。拘束しろ」
見かねた兵士が声を掛け、二人の喧嘩に巻き込まれた。
近寄ってきた兵士に偶然肘打ちが決まったのかと一瞬思ったが、アランがわざとらしく笑っていたので、俺は故意だと確信した。
「(ジュン、こっちだ)」
メイソンに耳打ちされ、俺は牢獄の一番後ろの列からこっそりフェードアウトした。幸い、兵士たちはアランとレンの喧嘩を抑えるのに必死で、こっちのことなんて気にも留めていなかった。
奥から三番目の牢獄の扉を開け、ガコッと床の溝に手を入れ、上に押し上げた。こんなところに、隠し通路……。
「ここだ。飛び降りたら、すぐに直進。曲がり角で待っててくれ、扉を閉めたらすぐに追いかける」
俺は言われた通りに飛び降り、秘密の抜け道を駆ける。メイソンも後から合流し、上に長く続く階段をのぼり始めた。
「ここから地上に出られる。たしか、王都の裏門に繋がっているはずだからすぐに出られると思うけど……。警戒は怠らないように。気の緩みは不測の事態を招くからね」
メイソンが頭上の扉を頭で押し開け、地上へと出た。数日ぶりの地上の光はやけに眩しかった。
「行くよ。多分、気づかれただろうし、時間的猶予はない。急ごう」
「わかった」
王都は予想通り、世界史の授業で習ったような中世ヨーロッパの街並みと類似していた。街の中心にあるのは立派な王城、その王城を取り囲むように酒場や武器屋があり、レンガ造りの家が立ち並んでいる。
「あそこだッ!!」
「追え、誰かソイツらを捕まえてくれ」
追手がすぐそこまで迫ってきている。
「意外と早かったなぁ……。まあ、レンやアランはよく頑張ったよ。そのおかげで、かなり時間は稼げた」
メイソンがふと歩みを止めた。
俺もそれに釣られそうになったが……、「行け、足を止めるな」とメイソンに叫ばれ、そのまま走り続けた。
「裏門を抜けたら北に走れ。絶対に南には行くなよ。どうしてかは、時間がないから説明はできない。強く生きろよ、ジュン」
メイソンの声が途絶え、俺は全力で王都を抜け出した。
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