005. 奴隷

 何時だろうか……。

 牢獄には時計がないので、正確な時間が把握できない。


「――起きろッ‼︎」

 

 兵士の怒鳴り声が自分の鼓膜を突き破るかのように、耳に飛び込んでくる。


「新入り。起きろ、時間だ」


 俺はアランに体を揺すられ、重たい瞼を懸命に見開いた。

 目の前には、牢獄に収容されていた人々が両腕に手錠を付けられ、一列に並べられ始めている。いったい、何事だろうか……。


「何が始まるんですか?」


 俺は事態が把握できず、アランにこっそり耳打ちをした。


「これから、希少金属って言われてもわからないよな。そうだな、この辺りで採れるとされている珍しい鉱石を見つけるまで、洞窟を掘らされるんだ。そんでもって、俺たちが採取した鉱石は、王族が全てかっさらっていく。そして、それらの鉱石を売買して、王都の偉い奴らは儲けているんだ」


 まるで、奴隷のような不当な扱いである。


「ほら、ボサッとしてないで行くぞ?」


「はい」



 洞窟の中に入り、俺たちは効率化のために四人一組のグループに分けられた。俺たちのグループにはアランともう二人追加された。


「俺の名前はレンだ。アランとは昔酒場で知り合ったんだが、今やすっかり二人とも牢獄の常連者になっちまってる。何か困ったことがあれば、俺に言ってくれ。助けられる保証は無いが」


「僕はメイソンだ、よろしく。そうそう、君のことは『ジュン』って呼ばせてもらうね。それにしても、ひょろっとした体だね。スコップちゃんと持てるのかい?」


「自己紹介の必要はないな?」


 と、グループ分けになった人と一通り挨拶を済ませ、俺たちは鉱石が採れる穴場へと向かった。


「そういえば、ジュンはどうして兵士に捕まったんだい?」


 道中、メイソンがそんなことを尋ねてくる。


「えっと、それは」


 なんと言ったらいいのだろうか。やっぱり、公然わいせつ罪だろうか……。

 答えに頭を悩ませていると、アランが助け舟を出してくれた。


「コイツは遠くの村に住んでて、今は身寄りがないんだと。そんでもって、女王に自分の裸を見せたらしい」


 プッ……と、メイソンとレンが噴き出すように笑い出した。


「あはは……、あの女王に裸を見せたのかい。それでよく牢獄行きで済んだね。下手したらギロチンで首を切られてたんじゃないか?」


 メイソンが恐ろしいことを言い始める。

 しかし、よくよく考えてみれば、牢獄が存在し、王都や奴隷の存在から想像するに、ここの文明レベルは中世の時代と合致しているといえる。もしかしたら、王族による斬首くらい普通のことなのかもしれない。

 考えるだけでゾッとするが……。


「そういえば、ジュンは歳いくつなんだ? 随分と若そうに見えるけど……」


 レンが首を傾げながら、聞いてくる。


「えっと、十六歳です」


「――えっ⁉︎」


 前を先行して歩いていた三人の表情が驚きの色に変わる。俺、いま何かマズイことでも言ったか?


「ジュンッ‼︎」


「――っ⁉︎」


 ガシッと力強くアランに肩を掴まれ、俺は心臓が口から出そうなくらい驚いた。しかし、そんなことおかまいなしにアランは怖い顔のまま言った。


「お前はここにいるべきじゃない」

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