鬼姫快快、凛と舞う
「そらそら、そらぁっ!」
割る、割る、割る。
身の丈以上の獲物である
ヒュオ! ヒュオ……!
目にも留まらぬ速度で振るわれる金砕棒が生み出す風圧が龍の吐息の如く辺りに吹き荒れる。同じ
「そんなっ、バカでかいもの振り回して! おっかないな‼」
「ちょっとしゃくれとるけど、可愛いいんよ? アタシの呑ちゃん!」
「まじまじ見る余裕なんて……ないよっ!」
少年は盾を広く展開し、酒呑と自らの間に張り巡らせ遁走していた。能力を防御でなく隠れ蓑として使うことで彼女の接近を防いでいたのだ。
「逃げてばかりじゃ、ラチあかんよ?」
「…………」
愉しげに武器を振るい軽口を叩いてみせる酒呑だが、その気迫は紛れもない本物だ。一瞬一瞬に集中しなければたちまちに少年は呑龍の一撃の餌食となるだろう。
「そぉぉ、りゃぁぁっ!!」
大ぶりの一撃が障壁を根こそぎブチ破り両者を遮るものが一掃された。酒呑童子は挑発的な笑みを浮かべ少年の出方を待つ。
「……試すか」
少年は誰に告げるでもなく呟くと目を見開き眼の前の鬼を睨みつけた。
――ようやる。
酒呑は呑龍を振るい少年を追い続けていたがその懐に飛び込めずにいた。展開されるモザイクの盾の数はいままでより少ないにも関わらず攻めあぐねているのだ。踏み込むと同時、酒呑は呑龍を振りかぶるが――
ッ、ッ、ッ……クンッ
僅かに、ごく僅かにだが引っかかる。呑龍の動きが鈍っている。獲物が重くなったのとは違う。損なわれているのは自身の動きのキレだ。
――妨害されとるっちゅうことやね、コレは。
視界にチラつく小さなモザイクを横目に酒呑は横薙ぎ一閃でモザイクの防波堤を消し散らす。そして返す刀で一撃をくれてやろうと振り上げて見せた。
ッ、ッ、ッ
「ケヘ! そゆことか」
酒呑の動きがピタリと止まり笑いが漏れた。その声に少年も逃走を止め眉をひそめた。
「ずいぶん器用やねっ、少年⁉」
「鬼が金棒振り回して追いかけて来てるからね、必死なんだよ」
「そういう君も鬼やけどな!」
「……楽しそうだね」
「そらそーよ。お仲間の特性はその鬼自身やけん。それを知れることは素敵よ?」
鬼の特性を知ること、鬼がその特性を磨いていくこと、その積み重ねを肌で感じるこの瞬間に酒呑は昂ぶりケヘケヘと笑う。自分自身が闘争を好むこととは別にコレは愉しいことだ。
――振り上げきった呑ちゃんに盾をぶつけるんやなくて、振り上げようとするアタシの腕にちっさい盾をぶつけとるんやね。
呑龍の重い一撃を盾で受けきることは叶わない。幾重に重ねたところで龍の一撃に防御は容易く破られてしまう。酒呑の思うままに振るわせた時点で少年にとっては遅すぎるのだ。
ならば、思うままに振らせなければいい。完結した動作の結果に対応できないのなら、動作そのものを妨害する。彼女が金砕棒を振り上げようとした瞬間、四肢の関節のすぐそばに極小の盾を展開。幽かな障害を積み上げ動作のキレを殺す。回避に専念していれば鈍った一撃など届きはしない。
――けど、アタシの動きが見えとらんとそげなこと出来ん。いい眼ぇ、しとる。
「いいよ、いいよぉ! 鬼は特性を発揮してナンボやきねっ! 怪獣みたいなのとやり合うよりいいしなっ!」
「俺からしたらお姉さんが怪獣だよ。鬼に金棒だし……」
「なん? 脳筋呼ばわり?」
言葉と裏腹に少年の眼の光はくすんでいない。呑龍を握る酒呑の手がウズウズと震えた。
――もうちょいボコスカやりたいとこやけど、アタシの特性もぶつけなね。
酒呑童子はゆっくりと呑龍を掲げるように持ち上げた。
「ふふ、ええよ……少年。魅せちゃるよ」
その笑みに少年はゾクリと総毛立つ。
夜の帳の内に潜ます吐息。香るは静か竜胆の花。
艶な蕾は龍の瞳。臥せず眠りつく
主咲かす
咲かせよ燃やせ。龍の華。
「呑龍! 膨れて燃えよ!
主の声に龍は応え――瞬く間に大樹の如く膨れ上がり青紫の火焔を噴き出し燃え上がった。
ただ一振り。酒呑は呑龍を振り下ろす。
すべてが砕かれ燃え上がり押し潰された。
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