老人、斯くや語りて。

 老人は語った。

 それは、魔女が知る筈もない……帝国の話であった。

 とは言え、華のある話というわけでもない。

 要約してしまえば、連合のそれと大差のない話だ。

 

 連合がそうであったように、帝国もまた、戦後は混迷の中にあり、当然の様に、戦犯探しと責任の押し付け合いが始まった。

 その渦中には……将軍たる来儀の姿もあった。

 

 前線で獅子奮迅の活躍をした来儀は、逆に言えばそれだけ妬みを買ったという事でもあり、中央にも敵は多かった。優秀な将軍は、戦後には必要ない。


 狡兎死して走狗煮らる。

 一言で言ってしまえば、これはそれだけの話であった。

 

 

***

 

 

「というわけで、来儀という男は処刑されて死んだ……というのがまぁ、表向きの帝国史と言うわけだよ」

「……そして、歴史に語られない真実として、貴様は此処に生きているというわけか」

「まぁ、書類を弄る程度は簡単な事さ。そっちでも良くやっている事だろう?」

「全くだな」

 

 呆れたように、魔女もまた笑った。

 

「そうして、生きながらえてでも会わなければいけなかった相手が、これから会いに行く相手……というわけか」

「そんなところだな。今度こそ、妬いてくれたかね?」

「まぁ、少しな」

 

 冗談っぽくそう肩を竦める魔女に、老人もまた、笑みを返した。

 

「目的地まで近い。それまで、せいぜい妬いていてくれ」

「戯け……と言いたい所だが、興味が湧いている事に嘘はつけんな」

「それは良かった。かの魔女殿を退屈させずに済んでいるのなら、私も喜ばしい」

「ふん、その減らず口には、少しばかり辟易としてきたがな」

 

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