夏休み②
蝉の声がうんざりするほど近い。
ギラギラと光る太陽の真下で中野くんを待っていた僕は干からびてしまうのではないか、と思っていた。
帽子、被ってくればよかったな。
すると中野くんが両手を合わせながら走ってやって来た。
「ごめんごめん!」
駅の時計台を見上げると待ち合わせ時間から十分過ぎている。
「じゃあお約束通り、ファンタ一本奢りね」
僕はニタリと笑うと言った。
「僕、淳ちゃんに奢ってばっかりだな〜」
中野くんは不満そうに口を尖らせた。
「それは自分が遅れるからじゃん!」
僕は軽い笑い声をあげた。
映画館は夏休み中のせいか激混みだった。
「うわー、ほぼ満席だね......。」
窓口で表示された座席表を見た中野くんと僕は絶句した。
中野くんが観たいと言っていた「トリプル・ディー」は満席に近かった。
そんなに人気な映画だったんだ......。
「どうする、ここ端二席でいい?」
「端観にくいけど、しょうがないね......。」
僕たちは渋々端の席のチケットを買った。
「なんならネット予約とかしとけば良かったね」
「ネット予約なんてできるの?」
「淳ちゃん、世界は進化してるんだよ」
中野くんの表情が真剣すぎて僕は思わず笑ってしまった。
上映時間までまだ一時間近くあった。
僕達は近くのゲームセンターで時間を潰すことにした。
中野くんはゲームセンター内に並ぶUFOキャッチャーを見回していた。
「またUFOキャッチャーやるの?」
「うん」
「お金平気なの?」
「お小遣い貯めたんだ」
そう言うと中野くんはお財布から千円札を取り出し、両替機に入れた。
スルスルと千円札が引き込まれていった。と、同時にバラバラと十枚の百円玉が出てくる。チラッと中野くんを見ると嬉しそうな顔をしていた。
四十分後、僕は中野くんがUFOキャッチャーでゲットしたお菓子で両手がいっぱいだった。
「これ全部あげるから奢りなしでいい?」
「やだ」
僕は意地悪を言ってやった。
「それでさ、ディエゴがバーンって、あいつらに向かって銃撃ってさ!」
「そうそう、あそこのシーンほんとやばかった!」
「その後まさかのダニエル到来!っていうね」
「からのドレイクがスライディングしながら銃バンバンやるのめちゃくちゃかっこよ
かったわ〜」
「それな!」
僕たちは「トリプル・ディー」のラストシーンで会話が持ちきりだった。
最初は眠くてたまらなかったけれど段々面白くなってきて最終的にはファンになってしまった。中野くんはずっと前に身を乗り出して観ていた。
結構楽しみにしてたみたい。
「っていうか題名がなんで『トリプル・ディー』なのか分かった」
「なんで?」
「メインの三人さ、全員名前Dから始まるじゃん」
「お〜さすが淳ちゃん賢い!」
「まあ、実は天才だった的な?」
その後も僕たちは近場をブラブラ散歩したり、毎回遊びに行くときにお互いが持参しているDSでゲームしたり、ただ話したりしながらその日の半分を過ごした。
なんの気兼ねも要らないから楽なんだ、中野くんといるの。
帰り道。
僕はふと思い出した。中野くんにファンタ買ってもらってないや。
「ねえ中野くん、僕まだファンタ買ってもらっ......」
「あっー、バレたかあ〜。黙ってればバレないかなって思ってた」
「うそうそ、ちゃんとお菓子くれたもんね」
僕は袋いっぱいのお菓子を見て言った。
「なんだー」
「こういう所で人間性でるよね」
「淳ちゃん、またまたそんな事言っちゃって」
僕たちは最寄り駅で電車を降りて家の方面まで一緒に歩いた。
先に僕の家に着いた。
「じゃあ、バイバイ」
「明日もどっか行く?」
「行きたいけどさ、金欠」
「そっかー、じゃあまた連絡して」
「おっけー」
僕は金欠にならない中野くんが羨ましかった。
「じゃあね」
「じゃあね〜」
オレンジ色に染まった薄い雲がキレイな夕方だった。
僕達を甘く見るな!(オタクより) 高峯紅亜 @__miuu0521__
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