第8話

 部屋に押し入ったのは黒いスーツを纏った男達だった。彼らは手にした拳銃で鬼童衆の双鬼、大五郎と深編笠の大男を狙い、そして銃弾をこれでもかと撃ち放った。しかし深編笠の大男の前に躍り出た大五郎がその両手にした二振りの刀を振ると、彼らを狙った弾丸はその尽くが弾かれてしまう。


 動揺するスーツの男達だったが、髑髏の仮面の彼が警告するよりも早く、彼を取り囲んでいたガラスがその切っ先を男達に向ける。


 ――シャン。と今一度、深編笠の大男が手にした錫杖を床に突いた。すると矛先を変えたガラス片が一斉に宙を一直線に黒スーツの男たちに向けて飛んだ。暗闇の中でそのガラスは酷く視認し難く、スーツの男たちは何も分からない内に次々と飛来したガラスにその体を貫かれ、血を撒き散らしながら倒れて行く。


 髑髏の彼は体の自由を得て深編笠の大男に狙いを定めるものの、そこに大五郎が割り込み、手にした刀の切っ先を彼へと突き付ける。


「おまんは大人しくしておけと、おれあそう言ったぞ。……はあ、参ったなあ、おれあ暇潰し出来りゃあ良かったんだけんど……」


「帰るぞ、双鬼」


「あいよお」


 そして踵を返す深編笠の大男と、足を止めたままの髑髏の彼に笑い掛けながらもまるで釘を刺すかのように一瞥した大五郎は剣を鞘に納め、彼に付いて行こうとする。


 どうするべきなのか、髑髏の彼はその仮面の下に潜めた両目を伏せて考える。まさかみすみす目標を見逃すと言うのか。まだ薬は一つ残っている、しかし深編笠の大男の実力が未知数である以上、ただでさえ強敵である大五郎と共に相手をすることが得策なのかどうか。死ぬことは許されない、それは彼の願いに反している。しかし、自分に出来ることは戦う以外無い。死なず、殺す。それが出来るかどうか、彼は左の奥歯に潜ませた薬のカプセルに圧力を加えた。


「――逃がさないわよ」


 すると倒れた男たちを蹴散らしながら部屋へと踏み込んできた、同じ黒いスーツでありながら長い髪を後頭部で一纏めにした一目で女性と分かる人物がその手にした大型の銃器を構え、そして引き鉄を引いた。


 ぽんと気の抜ける様な音と共に、その大砲の様な銃口から射出されたのはグレネード弾。黒いスーツの女性が用いたのはそれの為の射出器ランチャーだった。


 だがまた錫杖のかんが揺れる音が鳴り響き、二人に向かって飛び出したグレネードは彼らを目前にしてガラスがそうであった様に宙で停止する。しかしそれに怯まず、次々とシリンダーの中身が残りの五発全て尽きるまで女性は撃ち続け、そして六発全て、グレネード弾は宙に停止する。口笛は大五郎のものであった。


「勇ましいねえ、べっぴんさん。おれの好みドストレート。良ければ今度……」


「行くぞ」


「ああもう、あいあい……」


 人差し指と中指を揃えて立てて、それをこめかみに当てた後、弾いて黒いスーツの女性に返した大五郎は深編笠の大男と共に通りに面した方へと歩みを再開、何とか食い止めようと空のランチャーを捨てて拳銃を腰から抜いた女性が追い縋ろうとするが、それを彼女の前に飛び込んできた髑髏の彼が阻止する。


 何事と女性が文句を言う前に彼は、窓から飛び出す二人に背を向け、彼女を抱えて彼らとは逆方向の窓から外へと身を投げる。直後、ビルの三階が火を上げて爆発を起こした。深編笠の大男が直前に鐶を鳴らし、宙に停止していたグレネード弾を全て爆発させた為だった。髑髏の彼は大男がそうすると見抜いて、女性を救うべく動いたのだ。


 爆発の余波に煽られて髑髏の彼は姿勢を崩し、着地が不可能だと察すると両腕の中に深く女性を抱き込み。背中を地面へと向けてそのままの自由落下に甘んじる。そしてすぐ、肉を打つ鈍い音が短く響いた。

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