第7話

 一瞬だけ意識が途切れていた。全身に奔る痛みに再び意識が繋がった髑髏の仮面の彼はまぶたを開けて己の右肩を見た。そこには大きなガラスの破片が深々と突き刺さり、どうやら貫通して彼を背後の壁へ縫い留めてしまっていた。その破片の形たるやまるで槍の様であり、たまたま偶然この形に砕け散ったにしては出来過ぎているように彼は思った。引き抜こうにもガラスの槍は壁から離れようとしない、どうやらかえしのようなものすら備わっているようだった。


 ただし、ガラスであるならば大した強度も無かろうと彼はそれを圧し折ろうと痛みを堪えて力を加えようとしたが、その時蛍光管の一つがショートを起こしたのか暗闇が一瞬だけ照らされたのだが、その一瞬、彼の目には大男の様な影が映り、それは彼の目の前で何か振り被ろうとしていた。

 大五郎と言う男にしては大き過ぎる、まずいと思い左手を己の前に差し出し庇うが、がちんという硬質な音が響くのと同時に何やら鈴か鍵束が揺れたかのような音も鳴ったことに彼は気付き、そして待てども右肩の痛み以外何も訪れない。やがて目が暗闇に慣れてくる。


「嫌だなあ、。そりゃあおれの獲物なんだがよお、盗らんでくりょうし。というか、予定より早いじゃんけ」


「……双鬼、貴様は戯れが過ぎる。直に衆の面々も揃うと言うのに、遊んでいる暇は無いのだぞ」


 一人は双鬼、大五郎と名乗った先程まで刃を交えていた男。もう一人はその顔を深編笠ふかあみがさで隠した袈裟懸けの大男。それが手にしていた錫杖は髑髏の彼に振り下ろされようとして、それをどういう訳か大五郎が二刀で受け止めていた。

 大五郎が深編笠の大男を義兄と呼び、邪魔こそしているものの仲違いしている様子でも無い。大五郎は一度敵として立ちはだかった者は自らの手で仕留めたい、どうやら拘りがあるらしい。それを深編笠の大男は愚かとしながらも、遂には錫杖を引いた。


 これを好機と見て、髑髏の彼は肩のガラスの槍を折り、左手首の刃で以て大五郎の背後を狙う。大五郎の制止の声も無視してその刃を大五郎の首へと目掛けて突き立てようとした直前、彼の動きはぴたりと停止した。時が止まった訳では無い、気が付くと彼の周囲を無数のガラス片が取り囲んでおり、その一つは彼の喉元へと突き付けられていたからだ。それ以上進めば、喉にそのガラスが突き刺さっていたことだろう。


「呆れた奴だなあ、自分は。何処まで律儀なんだい。はあ……感謝するぜ、義兄さんよお。おまんも少し大人しくしとけし」


 深編笠の大男からは兎も角、大五郎からは最早敵意の様なものは感じられず。この状況にありながらまだ目的である自らの首を取ろうとした髑髏の彼に呆れの溜め息を落とし、錫杖を床に突いた深編笠の大男の隣へと大五郎が並び立とうとした時だった。


 それは薬の効力が切れた彼にも分かり、取り囲むガラス片により身動きできない状況でその眼球だけを部屋の入口の方へと向ける。


 そして勢い良く開け放たれた扉からは、矢継ぎ早の銃声が鳴り響いた。

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